「お客様は神様」ではありません

たねや社長の新しい「三方よし」とは
山本 昌仁 プロフィール

仕入部と社会部

私の代になって新しく作った部署に、仕入部と社会部があります。

菓子屋における仕入れは、基本的に主人の仕事です。寿司屋の大将が弟子に「ちょっとカツオ買うてきて」と頼むことがないのと同様、主人自身が食材を見て仕入れる。

たねやで使う数量が大きくなったおかげで、昔とは比べものにならないほど良質な食材が手に入るようになりました。買い手としての力が強くなったのでしょう。より良いものが見つかると、どんどんそちらに切り替えています。

ただ、これだけ数量が多くなると、主人一人ではできない。それに、父の時代よりも、生産農家から直接仕入れることが増えている。なるべく生産現場を見たいので、組織として対応する必要が出てきたわけです。

生産現場を見るというのは、自分たちで栽培したり、収穫のお手伝いをするのと同様、作り手の気持ちや苦労を知るためです。それに加えて、適正な値段で買いたいという理由もあります。不当に買い叩くのではなく、その苦労に応じた金額を出したい。場合によっては市場価格より高くなってもです。

普通に考えれば、「買い手」である私たちとしては、一円でも安いほうが得をするはずです。でも、そんなことを続けていたら、「売り手」が消耗してしまいます。彼らが事業を続けていけなくなれば、私どもの商いも成立しなくなる。だから、持続可能性を考慮した価格で買い取る。これが、私たちにとっての「売り手よし」なのです。

ほかの菓子屋にこういう専門部署はないので、ビックリされます。でも、利益だけを優先しないという姿勢の表明でもあるのです。

普通の菓子屋にまず存在しない部署といえば、社会部。これも私の代になって立ち上げたものです。

儲けることだけを考えるのではなく、地域の一員として役割を果たす。ここまでご紹介してきた「商い以外の部分」は、すべてこの社会部が担当しています。森里海の連環も、田んぼの体験教室も、八幡山や西の湖の整備も、たねや渋滞の解消法や持続可能な社会を考えるのも、この部署の仕事です。

海外でも知られる大企業ならともかく、スタッフ2000人程度の菓子屋が、こうした部署をもつこと自体、異例でしょう。「三方よし」を実践していると言われてみれば、その通りなのかもしれません。