# 賃金

史上最高の企業利益なのに思ったほど賃金が上がらない日本経済の罠

パート賃金だけ25年で2割増の怪
竹中 正治 プロフィール

決して好ましくない、ある事情とは

さて、このような日本のフルタイム、パートタイム、そして全体平均の賃金動向の違いの背後にある事情は何だろうか。

第1に、フルタイム労働者の賃金に比べてパートタイム労働者の賃金が、日本では構造的に低過ぎ、その賃金格差の修正が緩やかながらも長期にわたって生じている可能性がある。

そもそも正規雇用とは法的に定義された概念ではない。退職年齢はあるが、それ以外には期間の定めのない雇用形態だ。その多くはフルタイムだが、少数ながら短時間勤務(パートタイム)の形態もある。

一方、非正規雇用には、いわゆるパートタイム・アルバイト、派遣社員、契約社員などのカテゴリーがある。契約期間は日雇い、1年、あるいは数年など有期である。もっとも多いのがパートタイムとアルバイトで、非正規雇用の約7割を占め、文字通り短時間勤務だ。

つまり正規雇用と非正規雇用の賃金格差が、フルタイムとパートタイムで分けた場合にも現れ、その賃金格差が緩やかながら縮小されるトレンドにあると言えよう。

第2に、雇用全体に占める非正規雇用の比率は90年代以降趨勢的に上昇してきた。非正規雇用の賃金は正規雇用に比べてかなり低いので、雇用者全体に占める非正規労働比率の増加が、雇用者1人当たりの平均賃金伸び率を抑制してきた。

例えば厚生労働省の資料によると、2017年6月の所定内給与に基づいて正規雇用でかつフルタイムと非正規でかつパートタイムの時給を比較すると、30~34歳の年齢層では1.5:1.0の格差、50~54歳では2.2:1.0の格差がある(厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」2017年)。

ちなみにこの調査によると、非正規雇用のうち273万人が正規雇用として働く機会がなくやむを得ず非正規雇用として働いている「不本意非正規」である。

 

ただしこの点では良い変化が見えてきたことも強調しておこう。

2015年以降は正規雇用も増加傾向が鮮明になり、雇用全体に非正規雇用が占める割合は37%台で頭打ちとなっている。その結果、非正規比率の上昇が平均賃金を押し下げる効果は剥落し、平均賃金は上がりやすくなっている。

実際、厚生労働省の報告書(「平成29年版 労働経済の分析」)で示された現金給与総額の変化の要因分析によると、雇用に占めるパートタイム比率が上がり続けた2010~14年は、パート比率の上昇によって1人当たり現金給与総額は年率平均0.5%押し下げられた。

しかし正規雇用の増加に伴うフルタイム労働が増加し始めた2015年から、そのマイナス効果は縮小し、17年からはわずかながらプラスに転じ始めている。

第3に、雇用者の年齢構成の変化も90年代後半から10年余にわたって正規雇用の平均賃金抑制に働いた。というのは、平均賃金指数がピークになった1990年代後半は、団塊の世代が50歳前後になり日本の年功的な賃金体系の中で最も賃金水準が高い局面に入った時だった。

その後、団塊の世代は「役職定年」を迎え、さらに60歳、あるいは65歳で定年退職し、それに伴い平均賃金を押し下げる効果が働いた。