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# 賃金

史上最高の企業利益なのに思ったほど賃金が上がらない日本経済の罠

パート賃金だけ25年で2割増の怪

パートタイムだけコンスタントな賃金上昇

今日の低失業率と人手不足、そして史上最高の企業利益にもかかわらず、日本の賃金伸び率の頭の重さは、賃金の「上方硬直性」とでも言うべき状態だ。

例えば雇用者1人当たりの平均賃金である現金給与総額(厚生労働省のデータ)を時給換算して見ると、1993年から現在までの名目の増加は4.4%にとどまり、年率平均の伸び率にするとわずか0.2%だ(2018年6月時点)。

ゼロ金利下でも大胆な量的金融緩和政策により、消費者物価指数で前年比2%の物価目標を実現してみせると宣言した日銀黒田総裁も、今では日本の賃金上昇率の弱さが、物価目標達成の大きな障害であると認めている。

なぜ日銀が物価目標2%にこだわるのか。そもそも金融政策とは名目金利水準を操作することで実質金利水準を上下に調整し、景気変動に対して平準化効果(景気の過熱や過度の不況を回避する効果)をもたらすものだ。

つまり「実質金利=名目金利+インフレ率」であるが、名目金利がゼロ近辺になると、それを割り込んでマイナスにすることができない。そのため、伝統的な金融政策が機能するためには一定水準のインフレ率(物価上昇率)が欠かせないからだ。

ところが、そんな日本の労働市場でも1990年代以降一貫して賃金が上昇し、93年比で23%も賃金(時給換算ベース)が増加した雇用部門がある。しかも当該分野での雇用は拡大の一途をたどり、今では全雇用者の3割を超える。

「えっ~嘘だろ。そんな分野があるのか」と思われるであろう。実はそれはパートタイム労働者の賃金である。

図表1が示す通り、90年代以降も右肩上がりで上昇し、2012年12月以降の平均年率の伸び率はプラス1.6%、17年以降はプラス2%を超えている(月々のぶれを均すために12ヵ月移動平均で表示している)。

一方、フルタイム労働者の賃金伸び率は図表2が示す通り、1998年にピークを付けた後は2012年まで緩やかながら下げ基調だった。2013年からは上げ基調に転じるが、上昇テンポは微弱で2012年12月以降18年6月現在まで年率平均プラス0.8%にとどまっている。

さらに日本と米国の賃金伸び率を、フルタイム労働者とパートタイム労働者に分けて比較したのが図表3である。興味深いことに、2008~09年の世界金融危機と不況からの回復過程での日米のパートタイム労働者の賃金伸び率はほぼ同じ水準で(図表の赤線と黄色線)、直近では双方年率2%台である。

ところが、米国ではフルタイム労働者の賃金伸び率(図表の青線)はパートタイムを趨勢的に上回り、直近では年率3%台である。一方、日本ではフルタイム労働者の賃金伸び率(図表の紺色線)は2000年代後半以降、趨勢的にパートタイムを下回り、直近でも年率1%余にとどまっている。

 
図表1
図表2
図表3