保険適用外の手術にするか否か

しかし、当時、直腸がんにおけるダビンチ手術は健康保険の適用外だった。弟の出産以来、入院をしたことがないどころか病院にもお世話になったことがなかった母の死を初めて意識し、気が動転していたのかもしれない。母は保険適用内の手術でいいと言ったが、私がダビンチ手術を選択した。担当医の営業トークにまんまと乗せられた、とも言える。

医師はダビンチ手術がいかにすばらしいかを簡潔明瞭に説明し、「開腹手術や腹腔鏡手術の場合は私が執刀しますが、ダビンチ手術の場合は教授が執刀します」「この病院では無金利でローンが組めます」と付け加えた。正確な文言は忘れたが、繊細な動きがお得意のダビンチくんなら、がんの取り残しを防ぎ、局所再発の可能性を軽減できるといったニュアンスのことも言っていた。あの先生は営業マンとしても成功できると思う。

こちらの記事では、『ブラックペアン』監修をつとめたダビンチ手術第一人者の渡邉医師のインタビューを掲載している

なお、これまで日本では前立腺がんと腎臓がんに限られてきたロボット支援手術の保険適用対象は、2018年4月から、胃がん、肺がん、そして直腸がんなど、12の術式に拡大した。

手術費用はローンで

2013年6月当時の手術代は約200万円だったとお伝えしておこう。保険適用になった今、はっきり書いても構わないと思うが、少し曖昧にしているのは、当時、医師から正確な手術費は公にしないでほしいと言われたからだ(要するにがんブログなどに書くなということだろう)。恐らく病院での手術例が増えるにつれ、値段を上げていったのではないだろうか。だから公にはしてほしくなかったのだと思う。医師や病院がまだロボット支援手術に不慣れな頃はもっと安かったのだろう。

手術後、看護師が「最初のダビンチの手術はこの倍くらい時間がかかっていましたよ」と言っていたのが印象的だった。また、手術費といってもその代金には食費や薬代、検査代なども含まれていた(差額ベッド代以外)。担当医の「旅行のパッケージツアーのようなものです」という言葉に、うまいことを言うなこの人と思ったのを覚えている。ちなみに消費税は別だった。

手術から10日足らずで母は無事退院し、今年6月の術後5年目の検診も「異常なし」だった。母は今ぴんぴんしている。食欲も旺盛だ(というか食べ過ぎ)。がんを患ったことは、私も母本人ももう忘却の彼方にある。保険でカバーできた腹腔鏡手術でも母は助かったのではと思わないこともないが、ダビンチくんが手術してくれたから今母はこんなに元気なんだと、私は自分の選択を半ば強引に肯定することにしている。

手術代は無金利のローンで払った。返済額は月々10万円。自分で希望の額を指定することができた。返済期間の上限はあったと思うが覚えていない。

参考までに、母は民間の医療保険には入っていなかった。医療保険に入っていた場合、積立金と相殺してどちらがよかったのか、計算するのも面倒だし、悔やむのも嫌なので考えていない。ただ、少し後悔しているのは、分割ではなく、一括で、クレジットカード払いにした方がよかったのではないかということだ。約200万円を一度に支払うというインパクトが強烈すぎて分割にしたのだが、分割ではカード払いが選択できなかった。しかしインパクトに負けずカードで200万円近くを支払ったなら、ポイントもわさわさついたであろう。航空会社のマイルに移行したら、韓国程度には行けたのではないだろうか。無念である。

とにもかくにもすべての返済を終えたあとにはちょっとした達成感があった。これからは住宅ローンだけ返していけばいい。手術代の返済中は繰り上げ返済も大してできなかったが、これからはこまめに返していこう。老後に向けて貯金もしないといけない。住宅ローンとは別に月10万円返済していたことを考えれば、年に最低120万円は貯金ができるはずだ。

そう思いはじめた矢先、今度は父が病に倒れた

次回は父親の入院でかかった「意外な費用」や年老いてからの病気について。第一回目のマンション購入時の話こちら