父は自営業で、母は専業主婦だった。受け取れるのは、「老齢国民年金」のみで、2階建て部分(「厚生年金」)はない。2人とも保険料は40年間満額を支払っている。しかし、娘の家に住み、居住費がかからないにもかかわらず、娯楽のために使えるお金などほとんど残らない

旅行シーズンなどに、駅や空港でインタビューを受けている老夫婦や三世代家族の姿がテレビに映し出されると、母はいつも「この人たち、旅行するお金があってすごいわねえ。きっとお金持ちなのね」と口にする。そのたび私は小さく絶望する。家を買っても、住宅ローンを払い終わっても、将来、「老齢国民年金」だけではゆとりをもって暮らしていけないことを痛感するからだ。

毎月いくら稼ぎ、どのように備えれば、明るく楽しく老後を過ごすことができるのだろうか。これは私たち個人事業主や自営業の人だけでなく、会社員を含め、多くの人が抱いている不安ではないかと思う。

優雅に、なんて贅沢は言わない。ひもじい思いをせずに暮らせればいい。私には、老後の生活の面倒をみてくれる子どももいない。「国民年金基金」「個人向け確定拠出年金(iDeCo)」、など、公的年金への上積みとして入ることができる私的年金の必要性をひしひしと感じる日々だ(しかし私的年金で損をした人の話も聞くのでちょっと怖い)。時々、「老人 生活保護 持ち家」という単語でネット検索をかけたりもする。

老後に備えようと思った矢先の母のがん

それでも突如スタートした、老夫婦と未婚中年の娘の暮らしは、つつましいながらも悪くはなかった。両親と住むのは20年以上ぶりだ。今さら親と同居できるのかと心配していた友人もいたが、平気だった。洗濯は母がやってくれるし、「お腹すいた」といえば、食事が出てくる。朝まで飲んだくれることも減った。そんな生活が新しい「日常」となり、60歳まで年150万円ずつ貯金して老後に備えようと思いはじめた、2013年5月、母の直腸がんが発覚した。

近所のクリニックでがんが見つかり、大学病院を紹介され、約1週間にわたる検査入院を経て、改めてがんを告知された。医師は画像で見る限り、転移は見当たらず、がんも手術で取り切ることができるだろうという。そして、手術には3つの選択肢があると続けた。「開腹手術」、内視鏡を使った「腹腔鏡手術」、そして、「ロボット支援下手術」(ダビンチ手術)だ。

「ロボット支援下手術」に関しては、二宮和也が主演したテレビドラマ『ブラックペアン』に出てきた、「ダーウィン」を思い出してもらえばわかりやすい。現在、もっとも市場に普及している手術支援ロボットは、アメリカで製造された「ダビンチ」というもので、実際、『ブラックペアン』では、「ダビンチ」が、「ダーウィン」として登場している。

「ロボット支援下手術」は内視鏡下手術(腹腔鏡、胸腔鏡手術など)に、ロボットの機能の利点を組み合わせた術式で、ロボットアームに内視鏡カメラと超音波メスや鉗子などを装着して手術を行う。実際の操作を行うのは人間で、3次元画像で映し出されるモニターを見ながら行うのだが、鉗子の動きの自由度が高く、人間の手以上に繊細な動きができるのが特徴だ。手術の際の傷が小さくてすむため、術後の痛みが少なく、回復も早い。