警察庁長官狙撃事件の真犯人を支援した男の「正体」

「ローンウルフの思想」を受け継ぐ者
原 雄一 プロフィール

もう一人のローンウルフ

すると、今度は中村から封書が届いた。

6月3日付で書かれたその手紙は、内容に変化があった。

恵まれない境遇の下、懸命に生きる同志・小川に思いを馳せながら、中村は、

「彼について、長官狙撃の一味だったなどと応えたら、決して彼に良い影響はないので、あくまでも沈黙するほかないのです」

と書いてきた。

 

私は、この手紙の脈絡から、「小川は長官狙撃事件の一員だったが、彼のことを考えると、私の口からそれを明言するわけにはいかないのです」という中村の苦悩を受け止めることができた。

狙撃事件当時はまだ若かった小川雅弘も、経験と実績を積み重ね、今や成熟したウルフに成長していることだろう。

何よりも、中村泰という類まれなローンウルフから伝授された思想や行動能力は相当なレベルに達しているに違いない。

鍛え上げられた褐色の体躯(たいく)、蓄積された知識、訓練と実戦を重ねてきたライフルの射撃技量、いずれもが常識を超越しているものと想像する。

すでにきみは、中村が目指した武装組織を結成して、隠密行動を遂行しているのかもしれない。

今、きみは、何を考え、何を行動目標にしているのか。

今、きみは、どこに活動拠点を置き、何人の同志を抱えているのか。

今、きみが構えるライフルのスコープから見えるターゲットは何なのか。

いずれにしろ、きみたちの研ぎ澄まされた牙を、何人(なんぴと)に対しても剥かないで欲しい。

それは、かつて中村と対峙した捜査員としての切実なる願いである。

悲惨なテロ行為は、だれも望んでいない。