騙されるな、空前の電気自動車(EV)ブームは空振りに終わる

次世代環境車の穴馬はLPG自動車か?
大原 浩 プロフィール

政治主導の電気自動車、消費者は本当に買うのか

欧州あげて次世代環境車として推進していた「ディーゼル車」が大コケした後、ドイツを中心とした欧州の各国政府が急速に電気自動車普及へ舵を切ったのは明らかである。

また、中国が電気自動車導入に必死なのもアナログなガソリン自動車やハイブリッドでは日本勢に永遠に追いつけないからである。

しかし少なくとも現状では「ハイブリッド」が環境車の本命である。自動車自身で発電するため送電ロスがほぼない(つまり超電導が必要無い)だけでなく、これまで無駄に捨てていた、ブレーキを踏んだ時の抵抗力などもエネルギーとして再利用できるすぐれものである。
 
しかしこの分野ではトヨタやホンダ(特にトヨタ)が市場を席巻している。欧米や中国の政府が、自国メーカーが太刀打ちできない分野を無視するのも当然である。

マレーシアではプロトン、ロシアではラーダ(シグリ)のように、誰も買いたくないような自動車を国策(国産)として生産しているのは自動車産業が極めて政治的な象徴性(米国でもビッグスリーは国家の象徴)を持っているからだが、プロトンやラーダは愛国的な人々でも積極的には買いたくない製品である。

実用性に乏しい電気自動車も政府が独裁的に「配給」などの手段で普及を図ることも可能かもしれないが、中国は別にして民主国家ではそこまでの強制はできない。

今回の「電気自動車ブーム」が始まってすでに10年は経つと思うが、読者が街で電気自動車に遭遇することはまず無いはずである。逆にハイブリッド車とは数え切れないほど出会っているはずである。消費者目線で考えれば結論は明らかなのである。

 

第一、電気自動車は不便である

電気自動車はフォルクス・ワーゲンやダイムラーをはじめとするドイツ自動車産業の礎を築いたフェルディナント・ポルシェ博士(1875~1951年)の時代から実用化されていた。

しかし、その後極めて安価な原油が採掘されるようになって、ガソリン自動車全盛の時代がやってくる。電気自動車が伸びなかったのは「電池」という決定的弱点があったことが大きな原因である。

化石燃料と比べ、単位質量あたりのエネルギー量が全く少ないうえ、それを補充するのに相応な時間が必要になるのである。

航続距離や充電時間の問題は、現在のリチウムイオン電池の技術の延長上でも、ガソリン自動車に肩を並べるレベルでの解決はできない。

例えば、テスラの電気自動車の航続距離性能が良いのは、簡単に言えばたくさん電池を並べたからに過ぎないのだ。その分、大型化し、高額化してしまっている。

また充電時間はもっと絶望的だ。日産「リーフS、X、G」(EV)の80%の充電を行うのに、急速充電で40分かかる。テスラ「モデルS」は専用充電器で80%から満タンにするのに30分から1時間必要である。三菱「i-MiEV」は80%充電するのに15分から30分であるが、それでも3分で出来上がるカップラーメンの5倍から10倍の時間である。しかも、例えば、2台分の充電設備しかないところに5台の車が一度にやってきたら、最後の車は最大2時間(充電時間が長めの1時間として)待たなければならない。

普通の人は最大90秒(意外かもしれないがこれ以上の待ち時間の信号は日本には存在しない)しかない交通信号の待ち時間でさえ耐えがたく思うのだから、この充電の問題が解決されなければ、消費者目線で考えて電気自動車が一般化するなどということは考えられない。

電解質を全く新しいものに変える「全固体電池」のような技術的ブレーク・スルーが無ければこの問題は解決できない。しかし、この全固体電池も研究が始まったばかりで、成功するとは限らないし、まして現在のブームに間に合うようなものではないのだ。消費者目線で考えて、これはとてつもなく大きな問題である。

さらに、電気自動車は電気代が安いことがメリットの1つだといわれるが、これが充電ステーションの普及に逆風となっている。

充電ステーションの販売価格には色々なものが上乗せされると考えられるが、家庭用電力料金を基本に考えると、1000km走るのに必要な電気代は約1000円である(日産ホームページの「リーフ」使用事例を参考にした)。

300km分充電したとして約300円。充電ステーションの料金に上乗せするとはいっても限界がある。30分から1時間も場所を占有されて雀の涙ほどの料金しかもらえなければ、誰も充電ステーションなど建設したくない。したがって商業レベルでは充電ステーションは普及しないということになる。

欧州各国や中国政府の電気自動車が普及する、させるという話は、官僚が頭で考えた机上の空論である。