子どもたちの教育に「ニセ科学」が忍び込んでいる事実をご存知か

ラボ・フェイク 第8回
伊与原 新 プロフィール

EMが万能だとされるのは、「水からの伝言」と同じく、”波動”系のニセ科学だからである。比嘉氏は、「EMのもつ特別な”波動”が、すべてのものをプラスに転換する」という趣旨の主張をしている。「EMは神様」とまで言っているのだのから、もはやニセ科学というよりカルト宗教に近い。

比嘉氏個人の発言はともかく、EM側の”布教活動”は巧みだ。「困っている人がいるとEMが現れる」――ニセ科学批判で知られる菊池誠大阪大学教授の言葉だが、言い得て妙である。牛の口蹄疫が流行した宮崎にも、放射性物質の除染が必要だった福島にも、悪臭に悩まされた震災後の避難所にも、EMはやってきた。

そして、その周辺には必ず無数の「善意の普及者」がいる。その最たる例が、前述の新聞記事にあるような水質浄化イベントだ。EM入りのだんごを川や海に投げ込むイベントが毎年各地で開かれ、多くの一般市民がボランティアとして参加する。

だが、何人もの専門家が指摘しているように、EMによる水質浄化は、効果がないばかりか、有害ですらある。有機物を大量に投入することがかえって環境負荷を高める、現地の生態系に外来微生物を混入させることになる、というのがおもな理由だ。

にもかかわらず、EMは地方自治体や政界でシンパを獲得することに成功している。事実、水質浄化イベントには自治体から補助金が出ていることがある。2013年には「有用微生物利活用推進議員連盟」という超党派の議連まで発足した。その事務局長だった衆議院議員は環境政務官までつとめたというから、恐ろしい。

 

ニセ科学におかされる日本の教育

このEMもまた、教育現場に入り込んでいる。EMを使ってプール清掃をする。川や海にEMだんごを投げ込む。トイレにEMをスプレーする。こうした活動が、環境教育の名のもとに全国の小中学校で行われているのだ。今年の海の日、中部地方のある川で開かれた水質浄化イベントには、後援として市の教育委員会が名を連ねていた。

斎藤貴男著『カルト資本主義』によれば、EMを教材に使う一部の教師たちは、有害な微生物をバイキンマン、EMをアンパンマンになぞらえ、EMには超能力があると教えているという。

子どもだましだと笑うことはできないだろう。微生物ブームが続く昨今、スーパーには乳酸菌種を商品名にしたヨーグルトが並び、「善玉菌・悪玉菌」「腸内フローラ」などの言葉もすっかり定着した。細菌が主役のマンガも人気だ。我々大人もまた、微生物の「すごい能力」という話が大好きなのである。

微生物は自然環境を下支えする重要な存在。我々の健康に欠かせないパートナー。その力はまだ多くが謎に包まれ、まさに神秘的だ。どんな問題も、適当な微生物さえ見つかれば、解決してくれるのではないか――。そんなイメージを抱いている大人は、教育関係者を含め多いだろう。EMはそこにつけ込んでくるのだ。

もしEMに何らかの効能が認められたとしても、それが”波動”というニセ科学を論拠としている以上、学校に持ち込むべきではない。「水からの伝言」もそうだが、目的が正しいからいい、理科の授業ではないからいい、というわけにはいかないのだ。背後にニセ科学が存在している時点で、これらを使った授業は教育に値しない。

最近、昭和に創作されたものに過ぎない「江戸しぐさ」(江戸っ子の行動哲学)や、ニセ科学的な要素を多分に含む「親学」(伝統的子育てによっていじめや発達障害が防げるとする教育論)が教育現場に広まり、問題視されている。それに関して、歴史研究家の原田実氏が『オカルト化する日本の教育』の中で以下のような指摘をしている。

「江戸しぐさ」や「親学」の普及にもっとも影響力がある団体は、「TOSS(教育技術法則化運動)」という教育研究サークルである。TOSSは、会員である1万人以上の教師たちに授業例や授業技術を提供しているのだが、実はその中に、EMやゲーム脳、「水からの伝言」を扱ったものも含まれていたのだ。

日教組に左翼思想の影響が色濃いように、TOSSは自民党をはじめとする保守勢力との間に太いパイプをもっていると原田氏はいう。子どもたちをある特定の価値観に誘導していくために、ニセ科学を使った教育が利用される可能性があるわけだ。

歴史を振り返ってみても、科学がイデオロギーや政治と無縁でないのは明らかだ。次回はそのあたりを掘り下げてみよう。

(つづく)

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