子どもたちの教育に「ニセ科学」が忍び込んでいる事実をご存知か

ラボ・フェイク 第8回
伊与原 新 プロフィール

ニセ科学で「道徳」を説く?

道徳の授業でも、多くの小学校で教材として使われた有名なニセ科学がある。2000年代を中心に広まった、「水からの伝言」だ。

原典は、江本勝氏らによる同タイトルの写真集。「ありがとう」「愛」などの言葉を見せた水を凍らせると整った樹枝状の結晶ができ、「ばかやろう」「殺す」といった言葉を見せると崩れた結晶になる。そんな話を写真とともに紹介した本が、感動を呼ぶ”科学物語”として話題になったのだ。

「言葉固有の”波動”が水に情報を転写する」などという説明がなされているが、この”波動”は、物理学用語の「波動」(水面に立つ波、音波、電波など)とはまるで異なる。あらゆるものが発している霊気やオーラのようなもの、あるいは現代科学では正体が解明されていない”エネルギー”のことだ。

参考:<「コラーゲンが肌に良い」はニセ科学か、それとも…ひとつの答え>https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55140

左巻健男著『ニセ科学を見抜くセンス』によると、江本勝という人物の会社は「波動ビジネス」(波動測定器や波動水などの販売、カウンセリング)を展開しており、『水からの伝言』はもともとその宣伝の一環として出版されたものだという。

そんなことなどつゆ知らない教師たちが、一見美しいこの”科学物語”に飛びついた。児童に結晶の写真を見比べさせ、言葉には結晶の形を変えるほどの力があると説明する。そして、「人間の体も大部分が水できているのだから、友だちや家族に汚い言葉を使ってはいけません」と説くわけだ。

これが全国の小学校に広まっていく中で、ごはんやリンゴに「ありがとう」「ばかやろう」と言葉をかけるバージョンも生まれた。罵声を浴びせたほうは、傷むのが早くなるということらしい。

「子どもたちの心により響く授業を」という教師たちの思いはわかる。しかし、そのためには科学的な正しさをないがしろにしても構わないという神経には、うすら寒くなるような感覚を禁じ得ない。

 

「万能微生物」という妄想

7月31日付の毎日新聞(東京朝刊)に、〈副環境相 運河にEM菌 浄化根拠なし「知らなかった」〉という見出しの記事が出た。前段はこうだ。

〈20年以上前から水質浄化に効果があると宣伝されながら、科学的な裏付けがないと指摘される「有用微生物群(EM菌)」について、伊藤忠彦副環境相(一部略)がフェイスブックやツイッターに「(イベントで)運河に投入した」と投稿したところ、研究者を含む多くの人から批判が寄せられ、伊藤氏は一部の投稿を削除した〉

「有用微生物群(Effective Microorganisms、略してEM)」と聞けば、生物学用語かと思われるかもしれないが、違う。元琉球大学教授の比嘉照夫氏が提唱したもので、彼が関係する企業グループが販売している微生物資材の商標だ。

光合成細菌、乳酸菌、酵母などからなるとされているが、詳しい成分は未公開。もとは土壌改良剤として開発された培養液が主力商品で、飲料、食品、洗剤、化粧品、セラミックスと、様々な関連商品が展開されている。

EMのニセ科学性については多くの書籍やウェブサイトで検証されている。ネット検索でも数々の指摘を見つけることができるはずだ。

ここでは、うたわれている効能を列挙すれば十分だろう。「農作物の収穫が増える」「河川の水質を浄化する」「殺菌・抗ウイルス作用がある」「免疫力を高める」「がんを含め、あらゆる病気に効く」「原子に作用し、放射能を除去する」「人間関係がよくなり、いじめもなくなる」――。