子どもたちの教育に「ニセ科学」が忍び込んでいる事実をご存知か

ラボ・フェイク 第8回
伊与原 新 プロフィール

ID論者は普通、”知的存在”を「神」と言い換えることはなく、「聖書」についても言及しない。あくまで進化における”デザイン”の存在を実証しようという科学的試みであるから、教科書に載せるのにふさわしいというわけだ。

トランプ政権下では、こうした動きがさらに加熱されるかもしれない。彼の支持層であるキリスト教保守派の要望に応える形で、カリキュラムを教員や保護者の手で自由に組める「チャータースクール」という制度が推進されようとしているのだ。

 

教科書に載った「偉大なる知的存在」

以上述べてきたようなことは、けっして対岸の火事ではない。実は、日本の検定教科書の中にも、ID論を思わせる内容のコラムを載せたものがあるのだ。

〈遺伝子の世界と「サムシング・グレート」〉と題されたそのコラムは、育鵬社版『中学社会 新しいみんなの公民』という教科書に掲載された。村上和雄著『生命のバカ力』から抜粋、加筆された文章ということである。筑波大学名誉教授の村上氏は、高血圧の原因となる酵素の遺伝子解析などで有名な分子生物学者だ。

村上氏は、人体の膨大な遺伝情報がどのような仕組みで誰によって遺伝子に書きこまれたのか、現代科学ではまだわかっていないと指摘した上で、こう述べている。

〈この人間業をはるかに超えた事実に対しては、何か偉大な存在(サムシング・グレート)の力が想定されます。私たち生命体の大本には何か不思議な力がはたらいていて、それが親から子へ、子から孫へと伝えられることにより、私たちは生かされているといえるでしょう〉

おわかりだろう。この「サムシング・グレート」なる概念は、ID論における”知的存在”に極めて近い。村上氏もそのことを認めているが、同時に、自身が天理教の信者だということも明らかにしている。

信仰をもつ科学者などいくらでもいるし、宗教的な動機で科学研究をおこなうことに異を唱えるつもりもない。ただ、論考の中に「神」という項を取り入れた時点で、その研究者の科学は終わってしまうのではないか。そこから先は、立証も反証もできない世界だからだ。

そういう議論は脇へ置いておくとしても、「サムシング・グレート」というある種の「思想」を生物学的な文脈の中で取り上げたことは非常に罪深いといわざるを得ない。教科書という性質上、それが科学的に確立された事実であると生徒たちが誤解する可能性がある。

注目したいのは、このコラムが掲載されたのが社会科の教科書だということだ。文部科学省でも学校の現場でも、理科という教科を離れた途端、「科学的事実」というものがないがしろにされる傾向にあるらしい。

[写真]それは、本当に子どもたちに教えたい「科学」ですか?(Photo by iStock)それは、本当に子どもたちに教えたい「科学」ですか?(Photo by iStock)