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眠れぬイーロン・マスクと悩める投資家を襲った「テスラ最大の危機」

待つのは大復活か、それとも破綻か
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

47歳。ルックスも良くて美女にもて(ハリウッド女優と結婚・離婚したり、歌手と浮名を流したりしている)、テクノロジーへの造詣は深い。話し方はクールで知性的だがちょっとシニカル。映画「アイアンマン」で、女たらしの億万長者起業家「トニー・スターク」を演じたロバート・ダウニー・ジュニアが、役作りのためにわざわざマスク氏に会いに行ったくらいだから、スター性は十分だ。

マスク氏はアイアンマンのように赤いコスチュームで悪漢と戦ったりはしないが、「人類を救う」ことをミッションに人類の火星移住プロジェクトに真面目に取り組んでいる点では、アクション漫画のヒーローよりぶっ飛んでいるかもしれない。

こういう壮大なビジョンを描く経営者というのは、でかい夢も見せてくれるが無謀に見えるプロジェクトにも突っ走っていくので、投資する側にとっては極めて悩ましい存在だ。ビジョナリー経営者の存在は株価にプレミアムにもディスカウントにもなる。

大成功か、それとも破綻かーー。こういう投資は、究極的には会社ではなく経営者その人への投資になる。最後は目をつぶってビジョナリーの眼力と能力を信じて祈るしかない。ビジョナリーと一緒に夢を見たい、そのためには大きなリスクを厭わない、という投資家だけが自分の資産を託すべきだろう。

 

「鉄人」は今度もピンチを乗り切れるか

マスク氏はこれまでは、類まれな行動力と強運に恵まれ、「アイアンマン」のように絶体絶命のピンチを乗り越えてきた。

マスク氏の伝記によれば、南アフリカから出てきたマスク青年の最初のブレイクは、1995年に父親からの小さな資金で弟らと立ち上げたオンラインの電話帳サービス。これが急成長して4年後に大企業に買収され、28歳で2100万ドル(約23億円)を手にする。

普通の人なら20億円を手にしたらさっさとリタイアしてしまいそうだが、マスク氏はそれを宇宙開発の「スペースX」と決済サービスのX.comの二つの事業にそっくり注ぎ込んだ。このX.comがのちの「ペイパル」として2002年にイーベイに買収され、マスク氏の資産は1億6500万ドル(約180億円)と、3年で一桁増える。

でもマスク氏はまたこのほぼ全額を惜しげも無く、「スペースX」への追加投資と、電気自動車の「テスラ」、そして従兄弟がやっている太陽発電事業に投資してしまうのだ。

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そして、今度はそれが「100倍」以上となった。

2018年8月22日現在、テスラの時価総額は548億ドル(約6兆円)。その2割程度を保有する最大株主であるマスク氏の資産価値は、1兆2000億円程度という計算になる。スペースXのほうは未公開企業だが、最近の私募ファンディングで275億ドル (約3兆円)の値が付いていて、この54%を保有するマスク氏の資産は1兆6000億円以上と、テスラの保有価値より大きい。あわせて、ざっと2兆8000億円。

テスラ株を担保にした6億ドル超(昨年末)という莫大な個人負債を差し引いても、マスク氏は大富豪だ。

しかし、マスク氏の資産は価値が変動する株式である。2008年には全財産ゼロ、となる寸前までいった。スペースXは、ロケット機体を回収・再利用することによって打ち上げ料金を破格で提供出来るという画期的な事業モデルだが、最初はトラブル続きで、日本円にして100億円かけて開発したファルコン1号が、2006年の初打ち上げから3回立て続けに打ち上げに失敗。2008年には倒産の瀬戸際に追い込まれる。

同じ年にテスラが社運をかけて初のモデル「ロードスター」を発売したが、一台あたりの製造コストが販売価格を3割も上回り作れば作るほど赤字というコスト体質に加えて、生産の大幅遅延でキャッシュが底を尽きかけた。この年は最初の夫人と離婚までして、気丈なマスク氏も心神衰弱の一歩手前まで追い込まれたと、本人がメディアに語っている。