スノーデン事件から5年…民主主義を脅かすデジタル時代の監視の実態

日本政府の態度は、極めて危険な兆候だ
井桁 大介 プロフィール

日本政府の態度は、極めて危険な兆候

もちろん、テロ対策や治安維持といった分野では機密保持が不可欠です。全てをオープンにして議論することは現実的ではありません。

だからといって、全てをクローズにして良いわけではありません。政府を信頼するべきだというのは、民主主義や法治主義の否定です。

強大な権限を行使する以上、そして民主主義や人権保障などに対する副作用が強力である以上、少なくとも政府の権限の概要と外延に関する情報の公開と法の支配は不可欠です。

“政府による監視活動をいかに監督するか”――XKEYSCOREの問題は、このテーマに関する試金石です。曖昧にして良いことではありません。

しかし、日本政府は、NHKのスクープに対し、流出文書の信用性に疑問があるなどと述べ、議論を徹底的に避けています。文書の流出元のアメリカ政府すら信用性を認めているのにです。

日本政府の態度は極めて危険な兆候です。XKEYSCOREの有用性と危険性、そして現代におけるプライバシー情報の重要性を踏まえると、軍事力の私的利用と同レベルに危険な事態が訪れていると捉えるべきでしょう。

現代においてプライバシー情報は宝の山です。とりわけ通信情報は、メタデータにせよ、通信内容にせよ、マスとしての大衆の思考/指向/嗜好を把握し、分析し、操作するための重要な素材です。

軍事力を掌握すれば市民の動向をコントロールできます。これに勝るとも劣らず、プライバシー情報を掌握すれば、市民の動向をコントロールできます。

 

民主主義が根本から破壊されかねない

2018年3月に世界に衝撃を与えたケンブリッジ・アナリティカ問題は、時代の移り変わりを象徴するという点で、スノーデンリークに匹敵するスクープでした。

フェイスブックのアプリが、利用者だけでなくその友人の個人情報も抜き取っていたこと、合計5000万人を超えるアカウントの政治的な嗜好・志向が分析されたこと、日用品を買わせるかのように政策・政党を買わせるための広告が強烈に展開されたこと、実際にアメリカ大統領選の結果に影響があったと想定されていることなど、いずれを取っても民主主義の根幹に関わる問題をあらわにしました。

スノーデンリークは、デジタル時代のプライバシーに関する議論を巻き起こすとともに、デジタル時代の民主主義という問題を投げかけていました。

ケンブリッジ・アナリティカは、デジタル時代においては、民主主義が根本から破壊されかねないことを突きつけました。

〔PHOTO〕gettyimages

民主主義は、主権者である国民がそれぞれ自由に情報に接し、投票行動を決断し、国のあり方を決めるシステムです。自由に摂取していたと考えていた情報が、実は強制されたものであったり、得られる情報の枠に制限があれば、民主主義の前提が崩れます。

政治と広告の関係についても問題が提起されました。広告には独自のルールがあります。広告であることを秘してなされる報道は”ステマ”として禁止されています。サブリミナル広告など深層心理を動揺させる手法も禁止です。

日本であれば公職選挙法上厳格な広告規制が設けられています。これらのルールを全てかいくぐり、政策・政党を買わせることは許されるのでしょうか。

さらに、プラットフォーム業に対する規制が後手に回る問題も顕在化しました。メディアには独自のルールが課せられています。多様な法規制のほか数多くの倫理規制も存在します。

他方、SNSをはじめとするプラットフォーム業には、これらの規制が及んでいません。メディアと同様の機能を持ちながら、形態がプラットフォームであることのみを理由として、メディア規制を受けないことに正当性はあるのでしょうか。効果や機能に着目して適切な対応をするべき時代が来ているといえます。

欧州はデジタル時代に即した法制度・政治システムの構築を急いでいます。2015年10月、EU司法裁判所は、それまで欧米間の自由な個人情報の流通を認めていたセーフハーバー協定について、スノーデンリークによってアメリカ政府の個人情報保護システムが不十分であることが疑われるとして無効を宣言しました(シュレムス事件)。

2016年12月には、後の捜査に利用する目的でプロバイダーに通信情報や位置情報を無秩序に保存させることは許されないと判示しました(Tele2/スウェーデン事件)。対象者を限定しない大量監視に歯止めをかける判決です。

立法面では、2018年5月に新時代のプライバシー基本法とされるGDPRが発効されました。デジタル時代の特殊性を踏まえ、コンピュータによる情報解析等を個別に規制するきめ細やかな法規制が設けられています。全体として、個人情報を個々人の人格権・人間の尊厳の発露であるという哲学を打ち出しています。

特徴的な点は、治安機関・情報機関の個人情報の保護に関しても、GDPRと類似の内容を持つルールを同時に発効させたことです。

例えテロ対策や治安維持といった重大な目的のためであっても、フリーハンドで個人情報を取り扱うことは許されないことが明記されました。

EUが発効した捜査機関等を対象とする個人情報保護に関する指令の冒頭(全文はこちら

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