アメリカのナショナル・セキュリティ法の議論では、しばしば現代を3つの時期に画します。
ポスト冷戦、ポスト9.11、そしてポストスノーデンです。スノーデンリークは文字通り“画期的な”出来事でした。スノーデンリークから5年が経過した今、改めて日本における意義と重要性を紹介します。
スノーデンリークとは、アメリカの諜報活動に従事していたエドワード・スノーデン氏がリークした膨大な機密情報をもとになされた報道の総称を指します。
2013年6月、イギリスのガーディアン紙、アメリカのワシントン・ポスト紙などで連日、アメリカの諜報活動の詳細が暴かれました(概要は、拙著(共著)『スノーデン 日本への警告』(集英社新書)を、詳細は『暴露:スノーデンが私に託したファイル』(新潮社)」をご覧ください)。
スノーデンリークによりアメリカ政府が想像を絶する大量監視に手を染めていたことが明らかになりました。
その内容は多岐にわたりますが、以下の3つの監視プログラムが重要です。
1つ目は、アメリカ国内のすべての電話会社に対し、毎日、顧客の電話のメタデータすべてを提出するよう命じていたというプログラムです。
電話のメタデータとは、会話内容以外の情報のことで、いつ、誰が、誰に対して、どれくらいの時間電話を掛けたかというものです。
2つ目は、アメリカ人と外国に住む外国人との間の通信内容、つまり、電話、メール、SNSのチャットなどを、個別の令状なく取得していたというプログラムです。
犯罪と無縁なアメリカ人が監視対象とされていたとあり、これらのプログラムはアメリカで大騒ぎになりました。盛んに議論され、第三者委員会の調査が行われ、法改正が行われました。
しかし、3つ目のプログラムは、アメリカではそれほど話題になりませんでした。これは、外国に住む外国人のインターネット通信を、根こそぎ集めるというプログラムです。
全世界のインターネットトラフィックの90%以上はアメリカ本土を経由すると言われています。この物理的な優位性を利用して、海底ケーブルや無線通信などから、システムの容量がフルになるまで無秩序にひたすら情報を集めていることが暴かれたのです。
この監視プログラムの説明資料に記載された”Collect it all”というタイトルは、アメリカ政府の姿勢を端的に表すものでした。
アメリカ国外に住む外国人のプライバシーが侵害されたとしても、さしてアメリカ人の興味は惹きません。
他方でアメリカ国外に住む非アメリカ人にとっては大問題です。実際、メルケル首相の携帯電話が盗聴されたドイツ政府は公式にアメリカ政府に抗議を寄せました。
同じく通信内容が傍受されていたブラジル大統領は抗議とともに予定されていた訪米を取りやめるなどしています。
しかし、日本ではそれほど騒ぎになりませんでした。菅官房長官(当時)は、「従来より、アメリカではテロ対策という観点から合法的な取り組みが行われてきていると説明されてきているが、仮に違法な活動があるのであれば、あってはならない」「米国内の問題なので、米国内で処理されることだ」などと述べるにとどまりました。公式・非公式を問わず、アメリカ政府に抗議をしたという報道はありません。
日本メディアの調査報道等も少なく、世論はほとんど盛り上がりませんでした。多くの市民からすれば、遠いアメリカ政府に日々の自分の日本語でのやり取りを盗み取られたところで、生活に影響はないと考えたのかもしれません。