覚せい剤に大麻…薬物使用者をあえて「罰しない」驚きの改革の効果

クスリの問題使用が減るんです
丸山 泰弘 プロフィール

このコミッションでは、対象となった人が必要とする「社会保障の問題」の解決に当たることが優先されている。つまり、薬物使用の根本原因となっている貧困や生活環境の悪化などに対処し、彼らが生活の立て直しを図れるよう、必要な支援が得られる団体へと橋渡しをするのである。

一般的に薬物依存への介入というと、もっぱら医療行為がイメージされるだろう。しかし、ポルトガルにおいては、医療行為は医療的治療を必要としている人への支援であるとしか認識されない。むしろ最も大事にされているのは、住居や食事の問題などを始め、生活の土台や教育環境を安定させる支援をソーシャル・ワーカーが中心となって行うことである。

筆者は、ポルトガルの厚生労働省に当たる保健局から公認を受けて支援を行っている「依存症に伴う行動および依存状態への介入に対する総合的な管理局:SICAD」やIN-Mouraria(リスボン)、NGO団体のAPDES(ポルト)を訪問した。

 

IN-Mourariaは、HIVや肝炎の予防活動を中心に支援を行っており、APDESは薬物問題に限らず地域社会の発展のための課題や施策を打ち出し、政府に提言を行っている団体である。

とくに、IN-MourariaやAPDESでは、事務所に相談窓口やスタッフを配置するだけでなく、ストリートにも積極的に赴き、綺麗な注射器や水、消毒液やコンドームなどのセットを配り歩く。そうしたなかでソーシャル・ワーカーやナースが、生活面、健康面で困っていることがないか相談に乗り、ピアカウンセラーが他のスタッフには話せない相談を聞いて回る。

実際に配布されるコンドームや注射針(著者撮影)

その際に、悩みが聞き出せなくても、定期的にセットを配ることを伝え、何度もコンタクトをとる。自分たちの事務所に来てもいいと伝え、その場での支援が必要であればそれを聞き出すのである。

改革後、問題使用が減った

ポルトガルでは、「薬物の使用」とは生きづらさが表面に出てきたものであると考え、社会保障の充実によって問題使用の減少を目指している。

とはいえ、刑罰化をやめたのだから薬物の使用は増えたのではないかと思う向きもあるだろう。

しかし、ヨーロッパ全体の薬物政策の状況を発表しているEUの研究施設「EMCDDA」の報告によると、ポルトガルの薬物の問題使用は、非刑罰化直後の2007年までは緩やかな増加傾向が見られたが、それ以降は減少に転じている(ちなみに、過去1年の使用歴調査では、「カンナビス」の使用が2007年から2012年にかけて減少した後に、再び若干の揺り戻しが見られているが、それ以外の薬物使用歴は減少している)。

薬物使用を減らすために必要なのは刑事罰だけではないことを証明しているのである。

筆者自身は、「非刑罰化後、薬物問題にどのように対処しているのか」を学ぶためにポルトガルを訪問した。しかし同国で、そもそも「その人が、その人らしく生きていく」ための支援の一環として薬物を使用しないための支援が存在していること、住居や教育や食事など生活を再建するためのトータルな支援が目指されていたことを目の当たりにし、深く反省した。