あと20年で氷が消滅!? 北極の温暖化が日本も直撃する理由

北極は、もう後戻りできない
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深刻な北極海の酸性化

大気中の二酸化炭素が増えると、地球温暖化が進むだけでなく、海の「酸性化」も進行する。

海の水はややアルカリ性だが、海水に二酸化炭素が溶け込むと中性に近づく。これが海の酸性化だ。

海には、貝やサンゴのように、炭酸カルシウムで殻や骨格を作る生き物がいる。海の酸性化が進むと、炭酸カルシウムの材料になる「炭酸」(炭酸イオン)が減る。したがって、このような生き物にとって大打撃になる可能性がある。

東京海洋大学の川合美千代(みちよ)准教授らは、北極海のカナダ海盆で、海水の「未飽和」が大規模に進行していることを、2009年の論文で指摘した。

殻や骨格を作る材料になる「炭酸」と「カルシウム」が十分にあるのが「過飽和」の状態で、不足しているのが「未飽和」だ。

沿岸などに部分的に「未飽和」の海域があることは、その当時から分かっていたが、それが広い海域に及んでいるという指摘は、研究者たちの目を北極海に向けるきっかけになった。

さらに、川合さんらは2016年、太平洋の海水が北極海に流れ込んだ場所にあるチャクチ海の海底近くで、かなりの長期にわたって「未飽和」の状態が続いていることを明らかにした。

2012年夏から2014年夏までのデータをもとに計算した結果、海水に溶けやすい「アラゴナイト」というタイプの炭酸カルシウムで殻を作る場合、1年のうち8か月前後も「未飽和」の状態になっていたのだ。

二酸化炭素の排出削減に努めなければ、今世紀の半ば過ぎには、チャクチ海ではほぼ1年を通じてこの状態が続くことになるという。

チャクチ海の海底付近での「飽和度」を示すグラフチャクチ海の海底付近での「飽和度」を示すグラフ。飽和度が1以下のピンクの領域が、アラゴナイトの殻を作れない「未飽和」の状態(川合美千代氏提供)

この事実が分かって、新たな謎も生まれた。こんなチャクチ海の海底に、二枚貝が大量に生息していることだ。

しかも、まだ成長段階にある小さめの貝も含まれていた。「未飽和」のため殻を正常に作れるはずのない環境で、二枚貝がふつうに生きていたのだ。

なぜなのかは、まだ分からない。

「東京湾の海水も、50年後にはこのような状態になりそうだ。あちこちの海でこれから起きそうなことが、チャクチ海ではすでに現実になっている。地球の将来をいま見ることができるのも、北極研究がもつ大きな意義だ」と川合さんは話す。

チャクチ海の海底から採取した貝チャクチ海の海底から採取した貝(川合美千代氏提供)

北極海の海氷が減れば船の航行が可能になると世界が注目しているが、その海氷がどれくらい減っていくのかさえ、じつは、まだきちんと予測できていない。

また、夏から秋にかけての海氷の減少と日本の厳冬との関係が、最近になって崩れてきているともいわれている。なにか新しい状況が生まれているのかもしれない。

AMAPの親組織である「北極評議会」では、日本はオブザーバーにすぎないが、「日本は科学研究を通じて、北極評議会にも貢献できる」と菊地さんは言う。

北極域の科学は、未知の領域が多く残る注目のフィールドだ。小さな派生的研究ではなく、世界の地球科学に貢献できる根本的な発見が科学者を待っているのかもしれない。(サイエンスポータル編集部 保坂直紀)

サイエンスポータル」過去の関連記事:
•2017年3月24日ニュース「南極の海氷が観測史上最小に 極地研とNASA」
•2016年5月6日ニュース「シベリアの永久凍土の乾燥化進む 急激な温暖化が一因」