東京五輪ボランティアをやっぱり「やりがい搾取」と言いたくなるワケ

過去の「動員」を思い出す…
仁平 典宏 プロフィール

結局、五輪ボランティアの社会的意義って?

このように、ボランティアの無償問題は自発性の仮定が満たされているかどうかでかなり整理できる。非自発的ならば当然支払われなければならない。ただし自発的でもお金の問題を無視できないケースがいくつかある。その一つが(3)やりたいけど交通費や滞在費がかかるため応募できない場合である。

海外の五輪でも、ボランティアに金がかかるため、高所得者の方が参加する傾向があった4。では、お金にゆとりのない人でも五輪ボランティアをできるように、実費や報酬を出すべきなのだろうか。

この答えは、五輪ボランティアにどのような社会的意義を認めるかで変わってくるだろう。推進側は「一人ひとりが互いに支え合う『共助社会』実現に寄与」すると主張する(東京都・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会2016『東京2020大会に向けたボランティア戦略』)。

しかし、戦前の恤救規則から近年の介護保険のサービス抑制に至るまで、日本では「地域の支え合いや共助」という理念が社会保障の切り下げに用いられてきたことを考えると、個人的にはすんなりうなずける話でもない(拙著2011『「ボランティア」の誕生と終焉――〈贈与のパラドックス〉の知識社会学』名古屋大学出版会)。

これに対し、五輪ボランティアの意義についてユニークな考え方をしていたのはロンドン五輪である。そこでは、五輪ボランティアは社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)の一環として位置づけられ、求職者や非正規労働者が事前研修や大会での経験を通して雇用可能性を高め、就職や昇進につなげることが期待された5

その主なターゲットは若者層である。実際にロンドン五輪の若者のボランティアは、履歴書の見栄えを良くするために参加したという動機をあっけらかんと語る傾向があった。雇用者側もボランティア経験のある学生への期待値は高いという知見があり、求職者にとって五輪ボランティアは合理的な選択である6

 

もしこの方向性を突き詰めるならば、豊かな人ばかり五輪に参加しても意味がないので、ゆとりのない人も参加できるように経済的保障をするという議論もありうる。

もっとも日本では、ボランティア活動の経験が就職や昇進で考慮されることは少ない。それどころか、成績や就職のためと言うと偽善視されかねない。やりがい搾取批判が流行する一方で、妙に潔癖なところがある。実際に「履歴書のため」にボランティアをする割合は、仕事の競争の激しいアングロサクソン諸国(アメリカ、イギリス、カナダ)では高い一方、日本では低い7

東京五輪ボランティア推進の資料を見ても、「おもてなし」や「全員が自己ベスト」のようなふんわりワードばかりで、社会政策的な意義や雇用との関係については全く検討されていない。活動経験をどのような形で社会的に評価し、参加者のリターンにしていくかという問いと正面から向き合わない限り、ボランティアの報酬の是非に関する議論は深まりようがないだろう。

タダか否かの論点を越えて

これまで五輪ボランティアの問題は「タダ働き」という点に焦点があたってきた。それも重要な点だが、より根本にあるのは、五輪でブラック労働をはびこらせないということではないだろうか。無償労働とブラック労働は重なる部分もあるが、ズレる部分もある。

むしろボランティアか被雇用者かにかかわらず、膨大な仕事量、酷暑、研修・コーディネション不足による混乱、強制的な動員こそが、ブラック労働の温床になるだろう。ソウル五輪のときは警官が一人過労死しているが、東京五輪でも懸念される。

安心して働ける環境を作る責任が国、自治体、組織委員会にはある。無償/有償、ボランティア/被雇用者を問わず、「五輪だから」という理由で行われる過剰な労働を許容しないことが、今回の五輪で問われている。

*1 Niki Koutrou & Athanasios (Sakis) Pappous, 2016, Towards an Olympic volunteering legacy: motivating volunteers to serve and remain : a case study of London 2012 Olympic Games volunteers. Voluntary Sector Review 7(3)
*2 朝日新聞朝刊1998年2月25日
*3 朝日新聞夕刊1998年1月23日
*4 前掲論文
*5 Geoff Nichols & Rita Ralston, 2011, Social Inclusion through Volunteering: The Legacy Potential of the 2012 Olympic Games, Sociology 45(5)
*6 Rita Ralston, 2016, Talking ’bout my generation: generational differences in the attitudes of volunteers at the 2012 Olympic Games, Voluntary Sector Review 7(2)
*7 Femida Handy et al., 2010, A Cross-Cultural Examination of Student Volunteering: Is It All About Résumé Building?, Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 39(3)