京成線・千住大橋がいま高い評価を誇っているシンプルな理由

一見ブランドに欠けてみえるけれど…
池田 利道 プロフィール

千住が気になるワケ

とはいえ、高齢化の動向をマクロに追うと、沿線が群をなして特徴を形成していることに気づく。群を形作る共通項は、その路線が東西南北のどの方向を向いて進んでいるかだ。

高齢化率が高い路線は北に偏っている。京浜東北線(北)、日暮里舎人ライナー、伊勢崎線、メトロ南北線と上位4路線はすべて北行き。都営三田線と埼京線を加えると上位10路線のうち6路線を北行きが占める。

これに続くのが、つくばエキスプレス、京成線、常磐線などの東行きである。ただし、東行きの中で京葉線とメトロ東西線は例外的に高齢化率が低い。一方、高齢化率が低い路線には、田園都市線、京王本線、中央線、西武新宿線、小田急線と西行きが多く、東横線、目黒線、京浜東北線(南)、池上線など南行きがこれに次ぐ。

これに対して、高齢化進展度は次の4つの特徴が目を引く。第1に、京葉線とメトロ東西線は高齢化進展度が高く、将来高齢化率が急上昇していくおそれがあること。第2に、現状では高齢化率がまだ低い西行きの各路線も同様の課題を抱えていること。

第3に、京葉線とメトロ東西線及び沿線に団地が多い日暮里舎人ライナーを除く北行きと東行きは、総じて中位以下のレベルにとどまっていること。そして第4に、南行き各路線の低さが目立つことだ。

23区の北部と東部には冒頭で述べた「阪神型」の路線が多く、西部と南部には「阪急型」の路線が多い。東西格差とも南北格差とも呼び得る東京の高齢化の実態は、ここにそのベースがある。だが、高齢化進展度まで加味した将来動向となると、評価は変わってくる。

現在高齢化が進んでいる「北」と「東」では、古いまちがさらに古びて魅力を失っていく動きと、これをリノベーション(再生)して新たな魅力を創出しようとする動きが混在している。ただし前者においても、古いまちには団地や工場などのリノベーションのタネがあり、それらを有効に活用することによって状況が変わり得る可能性がある。「西」では過去の遺産で成立してきたまちが、大きな曲がり角を迎えつつある。「南」は今の時点で最も強い。

ただし、高齢化率、高齢化進展度ともに低い東横線・目黒線の中で、沿線文化の象徴とも言える田園調布の高齢化率は26.1%、高齢化進展度は2.86を示すなど、まちを個別に見ていくと、「西」と似通った課題も浮かび上がってくる。

 

日本人は基本的に保守的だから、一度住んでしまうと沿線文化から簡単に抜け出せなくなってしまう。しかし、歳を取ったら沿線文化の呪縛からも卒業し、もっと自由に生きる方がいい。その結果としてどのまちを選ぶかは各自の価値観次第だが、そう言われても決めきれない人のためにひとつの動きを紹介しておこう。

参考資料2を見ると、すべての指標で京成線の千住大橋が高い評価を示している。理由は簡単で、再開発によってまちの更新が進み、若いファミリー層が急増しているからだ。ポイントは、武蔵小杉でも豊洲でもなく、千住大橋という一見ブランド価値に欠けるような下町であること。千住大橋と聞いて思い出すのはヤッチャ場で、かつてその近くには「千住の三越」と呼ばれるほどの商業集積が存在していた。

参考資料2
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千住を「穴場のまち」とする論があるが、その根拠はかなり怪しい。今の千住をひと言で評価するなら学生のまちへの変身だろう。ノスタルジック論だけでは古びたまちがさらに古ぼけていくだけにとどまるが、そこに学生や30代が重なると、まちは化学変化を起こす。

先に指摘したように、古びたまちには新しい魅力に生まれ変わり得るタネが多く存在している。それは武蔵小杉や豊洲にはない可能性だ。

千代田区で人口がより多く増えているのは麹町ではなく神田。中央区では佃・月島ではなく日本橋。麻布、赤坂、六本木、青山、白金、高輪と綺羅星のごとく高ブランドのまちが並ぶ港区で人口が最も増えているのは、新橋・虎ノ門を含む芝地区。そこは、まさに『三丁目の夕日』の舞台だった場所だ。参考資料2に記した高齢化にゆとりがある地区も、その多くが「下町」というキーワードを共有している。

若い人たちが「下町」を見直し始めた今、高齢者としても「古きものが新しく変わっていく過程で生み出される力」を、もっと積極的に評価すべきだろう。それは古い沿線文化の概念を超えて、今後新たに形成されていくだろうもうひとつの未来を見抜く力だ。若い世代の感性に、高齢者の知恵も負けてはいられない。

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