「〇〇は大便級に不潔だった!」的なニュースが的外れな理由

お風呂のアヒルちゃんは「菌まみれ」?

突っ込みどころが多すぎる

疑問① サンプル数について

まずは研究の妥当性に対して検証します。

そもそも、サンプル数が全体でn=19、細菌が大量に検出されたというサンプルがn=3というのは、統計的に十分なサンプル数であるとは言いにくいのではないでしょうか。

疑問② 比較の妥当性

続いて、メディアに掲載された表現について考えます。

まず、今回の研究で計測されているのはあくまで「細胞の数」であって、生き残っている菌の数をカウントしたものではありません。

一方で、便に付着している菌を測定する場合、多くは便の表面を綿棒などでこすって菌を採取した後に培養液で増殖させ、細菌自体の数(CFU)をカウントします。

今回の論文で掲載されているされている数字と、大便の菌の数とが直接比較可能なものか、疑問が残るところです。

疑問③ 7500万個という数

「ニューヨーク・タイムズ」をはじめとする国内外の一般向けメディアでは「1平方センチメートルあたり最大7500万個」という数字が使われていますが、論文自体には以下のように記述されています。

The real bath toy biofilms had an average coverage of 9.5 × 106 cells/cm2 (range: 0.1–2 × 107 cells/cm2), which equals an average of 1.3 ± 0.07 × 109 cells/bath toy (n = 19) when calculated with the surface area of individual toys (Fig. 2, Figure S4). In comparison, clean water controls were on average covered with approximately half that number of cells (5.5 ± 0.08 × 106 cells/cm2; n = 3), which equals 1.2 ± 0.03 × 109 cells/bath toy (n = 3). The highest coverage was observed on dirty water control toys with an average of 7.3 ± 1.0 × 107 cells/cm2 (n = 3), or 1.3 ± 0.2 × 1010 cells/bath toy (n = 3), respectively.

前述の7500万という数字は、おそらく “7.3 ± 1.0 × 107 cells/cm2” の上限数字をキリよくした結果なのでしょう。

ですが、よく読んでみると、これは入浴後のお風呂の水に11週間(!)つけておいた比較対象(dirty water control)の数字で、実際のグッズではおよそ950万個、入浴前の水を使った比較対象(clean water control)では550万個と書かれています。

ここで気になるのは、ニュース記事に数字が使われている「dirty water control」はどのようなものか、ということです。

論文にはこのコントロール群の具体的な作製手順について言及されていません。国や地域、家庭によって入浴習慣は異なるため、頻度や人数次第で使用後のお風呂の水の汚れ度合い、ひいては菌数にかなり幅が出ると考えられます。

そもそも、現実に即した数字という観点では、実際のグッズから検出された「950万個」が使われてしかるべきですが、ここもまた疑問が残るところです。

アヒルちゃんは危険物? 本当に?

私たちの生活環境には至るところに細菌が存在しています。

前述の通り、台所やお風呂場のバイオフィルムには大量の微生物が生きていますし、お風呂の残り湯を使って洗濯していると、気づかない間に洗濯槽の裏側に大量のぬめりや黒カビが発生していることも。

そして私たちの皮膚の表面にも、表皮ブドウ球菌をはじめとする様々な細菌が生息しています。

しかし、何年も使っている洗濯機が原因で病気になった、皮膚を舐めたら病気になったという話は聞きません。