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現場はパニック! キャッシュレス先進国・スウェーデンの「闇」

「現金を突然奪われた人たち」の悲劇
綿貫 朋子 プロフィール

だが、もしこれが「現金お断り」の店だったり、カードしか持たない客だったりしたら、どうなっていたのだろう。

実際、店内には買い物を諦めた人のものらしいカゴが無数、商品が入ったままあちらこちらに置き去りにされていた。頻繁に起こる事態ではないとはいえ、現金があって良かったとしみじみ感じた一件だった。

 

「現金を突然奪われた人たち」の悲劇

キャッスレス社会がはらむ問題については、スウェーデン中央銀行も認識している。とりわけ、同中銀によると、同国の電子決済のインフラは商業ベースのシステム・民間企業に集約されているため、何らかの問題が発生した場合、社会としての打撃も大きくなるのだという。

「E‐クローナ」と呼ばれる、デジタル化された法定通貨の発行可否を調査・研究するプロジェクトが立ち上げられたのもそうした背景からだ。危機発生時の対策強化を図ると同時に、現在は電子決済から疎外されている人々をも取り込む狙いという。

また、現金取り扱いをめぐっては、政府任命の調査委員会も発足している。今年6月には「一部銀行や金融機関には適切な現金取り扱い業務を供給義務がある」といった委員会の見解が発表された。

ただ、中央銀行の構想にせよ調査委員会の提案にせよ、現存する問題の解決策となるには、まだ長い時間を要する。では今、不便を強いられている人はどうすればいいのか。私が見聞する限り、各県の取り組み以外に、具体的な案は提案されていない様子だ。

全国紙「エクスプレッセン」ウェブ版に8月14日、市民による興味深い投稿意見が掲載されていた。「現金レス社会への移行は主に、カード手数料で大きな利益を得ている銀行によって推進されている」として銀行を批判するルーベンソン氏は、同時に、現金が使えなくなりつつあるスウェーデンの状況を、「キャッシュレス化」ではなく、「現金に敵意を持つ」と形容していた。たしかに、これまで当たり前に使ってきた決済手段=現金を突然奪われた人々にしてみたら、こちらの表現の方がぴったりくるかもしれない。

簡素で迅速な電子決済が普及したことは、私も便利でありがたいことだと思っている。他方、まだ現金を必要とする人を置き去りにしたまま突進している印象が拭えないスウェーデンのキャッシュレス化については、一体誰のために加速しているのだろう、と疑問に思うことがある。