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現場はパニック! キャッシュレス先進国・スウェーデンの「闇」

「現金を突然奪われた人たち」の悲劇
綿貫 朋子 プロフィール

キャッシュレス社会の「新しいコスト」問題

ちなみに、話はそれるが、IT機器を使いこなす年配者にも不安はある。私の70代初めのスウェーデンの義母は、スマホやPCを駆使し、自動引き落とし以外の家計の支払いをインターネットバンキングでこなすが、「もし私に何かあったらどうなるのか」と悩む。

同世代の友人が、やはり支払いを仕切っていた妻が急逝して途方にくれたのだという。そこで義父にネットでの振込方法を伝授しようと試みたが、目が悪いうえ、これまで仕事でも家でもPCとは無縁の生活を送ってきた義父は、10桁近い請求書番号を打ち込むだけでパニックに陥っている。

無理強いして誤操作やネット詐欺の被害を受けたくないし、かといって銀行窓口での現金振込だと毎月手数料がかさむ……。「高齢者だって慣れれば便利になる、と言われれば確かにそうだろうけど、どう頑張っても無理なケースもある」と義母は強調する。

 

電子決済の利用が制限される人々だけではない。他にも、例えば観光業など、現金の需要が高い企業・業者も問題を抱えている。

前述の県組合資料によると、スウェーデン国内で使用できない、あるいは手数料が高い外国のクレジットカードをもつ観光客相手の商売には、現金払いという選択肢があることが重要だが、銀行の現金取扱業務や支店数が大幅に縮小した影響で、セキュリティー会社による現金保管・輸送サービスなども縮小したため、自ら現金の保管や輸送などを担わざるを得ない業者も多いという。

業務が増えるだけでなく、当然ながら安全上のリスクも高まる。多くの企業が「業務削減」や「強盗被害対策」を理由にキャッシュレス化を進めている一方で、真逆の対応を強いられている人々もいるのだ。

こうした不都合はこれまでは主に過疎地域の問題とされてきたが、今では都市部でも生じている。スウェーデンで活発な同好会をめぐってだ。個人とは異なり、団体や企業には現金預け入れやスウィッシュの決済にも手数料が課せられるため、県組合によると、多くの団体が費用効率の良い現金取り扱い方法を見つけられないでいるという。

キャッシュレス社会の脆さを感じたある出来事

では、ITインフラの安定した都市部に住み、スマホやPCを使いこなす個人であれば安泰かというと、そうとも限らない。スキミングなどクレジットカードをめぐる詐欺犯罪や、通信障害などの問題があるからだ。

スウェーデンでは、ブロードバンドや携帯通信網などIT環境は整っているのだが、それでも何らかの障害を経験することはある。つい先日は、キャッシュレス社会のもろさを目の当たりにするような出来事に遭遇した。来客準備のため、近所の大型スーパーに買い物にいった時のことだ。

通常は10台前後稼働しているセルフチェックアウト方式の無人レジの大半がダウンし、動いている有人・無人レジ両方には今まで見たことがないほどの長い列ができている。店員さんに聞くと、「ネットワーク障害」。精算は現金か一部のクレジット・デビットカードでできるが、どのカードが使えるかはレジで試さないとわからないという。

結局、30分近く並んだ末、私が普段問題なく使っているカードは、その日は使えないことが判明。ただ幸い、自分でもいつ入れたのか覚えていないが、財布に「何かあった時のため」のお札があることに気づき、必要最低限のものは購入することができた。