2018.09.01
# 介護

田舎への「Uターン介護」が親のためにならない3つの理由

親子それぞれの幸せとはなにか
太田 差惠子 プロフィール

むしろ衰えていく母親

まず、「①経済的苦しさなどからの家庭不和」を説明しましょう。

シンイチさんは、介護離職をして実家に戻っても、正社員の職が見つかると考えていました。しかし、「介護を行う」が前提の再就職は、残業を避けたい、通勤時間は短く、などの希望があります。しかも、都会に比べて地方は求人が少ないので、条件に合う求人に巡り合う確率は低くならざるを得ません。

 

実際、介護のために正社員から転職した人のうち、その後も正社員になれるのは、男性は3人に1人、女性は5人に1人。そして、男性は年収が約4割ダウン、女性は半減という調査もあるほどです。

失業保険の給付日数はシンイチさんのケースで、330日。「もらう前は、『楽勝』と思っていましたが、実際にはあっという間に終了しました」とシンイチさんは言います。そして、経済的に苦しくなると、ゆとりがなくなります。

シンイチさんの妻も、不安だったのでしょう。ゆとりがなくなった末、義母や夫に対して優しくできなくなるのは、ある意味、当然なのです。

そんな家庭不和の延長線上に、次の「②母親のできる力を奪う」という事象が生じてきます。

シンイチさんの妻はだんだん母親がおっくうになっていき、「お義母さんは、ゆっくりしていてくれたらいいから」と口癖のように言うようになりました。母親としては、義娘が自分が動くことを嫌がっていると敏感に察知したのでしょう。そして、「迷惑にならないように、じっとしておこう」と考えるようになるのです。

結果、母親は「できる力」をだんだん奪われていきました。これでは、身体能力を衰えさせる原因にもなりかねず、本末転倒です。

photo by iStock

そもそも、介護状態の親のための「やってあげる」ことが親のためになるとは限りません。両親が故郷で2人暮らしをしているという男性(60代)から、こんな話を聞いたことがあります。父親は90代。シンイチさんの母親より1つ重度の「要介護2」。その父親が認知症の妻(男性の母親)を老々介護していて、男性は月に2回、実家に遠距離介護をしています。

たとえ、息子が月に2回帰ってきてくれるといっても、ほとんどの時間、両親は2人きりです。普通は、両親のことが不安になるものでしょう。しかし、男性は言いました。「2人で暮らしているから、何とか、彼らなりに、自立した暮らしをできている」、「元気だったときと同じように、自分たちの自力でやるから、気力も体力もむしろ衰えない」と。

実際、介護の現場ではなんでもかんでも「やってあげる」ことが優しさになるとは限りません。むしろ、安全に行える環境を整え、見守ることこそが、ほんとうの優しさなのではないでしょうか。

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