京都人の本音と外面
町家なんかどこがええのんやろ

新町通りで遭遇した京町家。黄昏時に町家に明かりが灯ったりすると京情緒満点。京都の町は夕暮れが似合います

 中二階に設えられた土塗りの「虫籠窓」、赤い紅殻の「京格子」、それを囲む竹の「犬矢来」、通りに沿って連なる町家の佇まいはいかにも"京都らしい"と旅人たちを魅了する。特徴はなんと言っても「鰻の寝床」と称される細長い造り。狭い間口に一歩足を踏み入れると通り庭の土間が裏庭まで続き、ええし(金持ち)の家だと次の通りまでドーンと一直線。

 京都撮影は数え切れないという、東京在住の写真家、原田氏も絶賛する。「碁盤の目に沿って建つ京町家は綾なす織物のよう。統一性のある狭い間口にはリズムがありどこを切り取っても絵になる」と感嘆するが、若い京都人に言わせると、「ハハハ、リズムというより長屋みたいなもんや。両隣の壁がぴったり張り付いて、個人情報漏れそうやし。庭付きの一軒家に住みたいわ」とシビアな返事。

賃貸物件を調査してみると

 つい先だって出版社をリタイヤした千葉の先輩から深夜遅く電話が入った。「今もゆらゆら揺れた! 関東は地震が怖いし、学生時代を過ごした京都を終の棲家にしたいの。町家探し手伝ってよ」というオファー。

 不動産屋を通りがかると、窓に「京町家」の3文字。参考までにと早速調査。その町家は御所の南側、袋小路にあった。街中のわりに静かで、とりまく環境もアクセスも申し分なし。奥四畳半の縁側からは白砂の坪庭も見えて癒されそう。

 吹き抜けの通り庭のシステムキッチンはやけにピカピカだったが、築年数は不明。いわゆる3Kで賃貸料は月7万円少々。風呂はないが、京間の4畳半は6畳ぐらいの広さがあるので世田谷辺りのワンルームと同じくらいの賃料なら確かに安い。これなら"お一人さま"の終の棲家にええかも。

 思えば、我が家も町家風だった。通り庭には黒光りした水屋、横にはおくどさん(竈)と走り(流し)があり、夏は裏庭の井戸で西瓜を冷やし、満月の頃は吹き抜けの天窓に真ん丸のお月さんが顔を覗かせた。

 ただし、昭和初めの建てもんで、すきま風が身に凍みた。この〝底冷え〟を嫌って改装すると、土間は板張りの床に、吹き抜けは合板で塞がれ、おくどさんとタイルの流しは消えた。気がつけば、ただの"古家"になってしまったのだ。

 町家経験のある京都人は誰もが"幻想や。町家住まいなんてやめときよし"という。中京の古い町家に暮らす木村はんは「修繕費も馬鹿になりまへん。暮れに通り庭の天窓が割れてしもて、雪が舞う中、お雑煮炊いてたんどすえ」と改築費100万円也を支払うはめに。上京の橋本家では壁穴から鼠が侵入、鏡餅を齧られ、「鼠にまでに馬鹿にされ、もう笑っているしかおへん」と嘆く。

 京都も核家族現象で町家住まいは年寄りばかり、主を失って空き家になった物件も数知れないとか。

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