阿川佐和子さんが両親の介護から学んだ「看る力」

イライラしたら笑っちゃおう

不機嫌な父を変えたもの

――ベストセラーとなった『聞く力』や『強父論』の著者で、インタヴュアー、女優として活躍する阿川佐和子さん。父で作家の弘之氏を看取り、現在は認知症の始まったお母様の介護もしています。

看る力 アガワ流介護入門』では、ご自身の経験を踏まえて、高齢者医療の第一人者である大塚宣夫医師と、介護について対談していますが、先生とはどのように出会ったのでしょうか。

阿川: 父は2015年に病院で最期を迎えました。入院のきっかけは転倒からのケガと緊急手術で、その時、誤嚥性肺炎も起こしていました。90歳を超えてから罹患する誤嚥性肺炎は非常に危険で、もう無理かとも思いましたが、奇跡的に回復できました。

当時父は、母と二人暮らしでした。その頃から母は物忘れをするようになっていて、病後の父の世話をするのは無理だったんです。

とはいえ父は、元気なうちから「老人ホームに入るくらいなら自殺してやる」なんて言っていた人。そんな父に適切な転院先があるかと悩んでいた時、今回対談した大塚先生が開設なさったよみうりランド慶友病院(東京都稲城市)のことを聞いたんです。

 

――大塚先生は、「自分の親を安心して預けられる施設にしたい」という思いから、ユニークな老人病院作りをしています。

阿川: 大塚先生のところへ転院が決まっても、父は「また病院か」と不機嫌でした。ところが、いざ病院でお昼を食べたら「うまい!」と言ったんです。老人施設を嫌悪していた父でしたが、大塚先生の病院のご飯の美味しさに胃袋を掴まれ、入院に納得してくれました。

普通に食事ができるようになると、今度は「鰻が食べたい」と言うんです。さすがに小骨のある鰻はダメだろうと先生に相談したら、「いいですよ。好きなものはすんなり喉を通ります」とにっこり。「晩酌がしたい」と言った時にも「どうぞご自由に」。もう、びっくりしますよね。

「食べることは人間の最後まで残る楽しみ。生きる楽しみを最優先して、原則自由な入院生活を送ってもらう」のが先生の方針なんです。

――大塚先生は病の治療を最優先する一般的な老人病院とは異なる発想をしているのも特徴的です。

阿川: 一般的に、お医者さんの使命は患者さんを治療して回復させることなので、医療の世界では、食事が喉を通らなければ点滴などの手立てを考えます。しかし大塚先生は、医療よりも介護、介護よりも生活を重視して優先順位をひっくり返したんです。

「食べたくない日があってもいい、入浴したくない日があってもいい。家庭での生活と同じリズム、パターンを可能な限り継続してあげることが高齢者の幸福につながるはずだ」と考えて、介護される側の気持ちを尊重した病院作りをなさっています。