どう対応するか知ってる?発達障害の子どもを支援する「最良の方法」

母親を殴り暴れる小学2年生の「激変」
黒澤 礼子 プロフィール

母親へ暴力をふるう、2年生の男の子を救ったカギは?

ここで、〈基礎調査票〉〈評価シート〉を活用した例をご紹介しましょう。

*プライバシー保護のため、内容はいくつかのケースを組み合わせています

Eくん 男 小学2年生(8歳)

母親と2人の母子家庭。母親は仕事をしており、幼児期は保育園、小学校に入ってからは学童保育でお母さんの帰りを待つ

片づけられない、朝起きられない、授業に参加しない、など

母親に対する反抗的(暴言など)な態度、暴力(蹴る、たたく、殴るまねなどの威嚇行為など)が目立つ

  Eくんの基礎調査票と評価シート

手のつけられない小学2年生!?

【それまで】 もともとEくんはだらしがなく、朝も起きられない傾向にあり、学校では授業も聞かずノートにいたずら書きばかりしていました。先生が注意しても聞かず、ノートを取り上げると椅子を蹴るなど暴れることがありました。給食はほとんど食べられないほど好き嫌いが激しいのに、お菓子は大好きでやや肥満傾向。

【相談時のようす】 国語と算数のワークをしたところ、散々文句を言い、なかなか取り組もうとしません。ようやく、取り組み、書き上げると、ほらと言わんばかりに放り投げてきます。ワークを見ると、乱雑ですが、思いのほか漢字は正確です。お母さんのお話では、漢字はほとんど練習しないのに、目で見て覚えてしまう、ということでした。算数のほうが苦手のようですが、1年生レベルの計算はできるようです。

お母さんに対する態度は、他人の前でも反抗的で乱暴でした。

過去の父親のDVがきっかけ!?

【母親への聞き取り】 お母さんに話を聞いてみました。

「Eがこんな乱暴になったのは、4歳のころに父親から、殺されるのではないかと思われるようなひどい体罰を受けたことが原因ではないかと思っています。あの子の父親は、私にも暴力を振るい、それが原因で離婚になりました。

母ひとり子ひとりの生活で、私も仕事があるので、日中はなかなか目が行き届きません。ふらっといなくなることもあるので、ついつい口うるさく注意してしまいます。Eは、それに対して2年生とは思えないような暴れ方をして、私の顔に紫色のあざができたことがあります。

思いあまって、そんなに乱暴ばかりするなら出て行きなさい! と言うと、はっとしたようにわれにかえって、泣いて謝るんです」

学校では、友達に暴力を振るわないものの、授業に対するやる気のなさを注意されると、暴れることはあるようでした。

【写真】父親の暴力がきっかけ?
  父親の体罰や暴力がきっかけだったのか? photo by gettyimages

"電車"が支援のカギになった!

【対応したこと】 担任の先生には、〈基礎調査票〉に記入してもらいました(上図左の図)。

すると、II-1不注意II-3衝動性が非常に高く出ました。また、異常に熱中することがあるとのことで、お母さんに確認すると、電車が大好きとのことでした。どうやら、授業中の落書きは鉄道の路線図だったようです。

Eくんに「電車が好きなんだって?」と聞くと、目を輝かせて電車の話をしはじめ、試しに画用紙に絵を描いてもらうと、山手線の車両の絵を、小学2年生とは思えないほどのできばえで描き上げました。私がほめると(実際驚いたのですが)、とてもうれしそうな表情を見せました。

【写真】電車が好きだったEくん
  電車が好きなんだって?と聞くと、目を輝かせた photo by gettyimages

母親との豊かな時間を取り戻した 学校ではちょいモテ・キャラにも

【相談後の方針】 そこで、お母さんには、Eくんが不注意や衝動性の傾向が強いことを説明し、また整理整頓が苦手であることを伝えました。そこで、お母さんには、

  • 片づける棚や場所を決め、食事や就寝前に一緒に片づける
  • うるさく注意しすぎないようにする
  • 後述の電車旅を実践してほしい

ことを伝え、Eくんには、

・1週間、片づけと宿題をがんばること
(カレンダー表をつくり、できたら○をつける)
・ちゃんと出来たら、日曜日にはお母さんと電車に乗りにいくこと
・そのために自分で路線や時刻を調べて
 じょうずに乗り継いで帰ってこられるように計画を立てること

などを約束しました。

学校の先生には、最低限とはいえ学力は身につけていることから、授業に参加していないようでも、先生の話は聞き、黒板もときどき見ているので、しばらくようすを見てなにも言わずに授業を進めてもらいました。

【その後】 いつの間にか少しずつ興味のある授業には参加するようになり、なんと嫌いな算数のドリルも自分からやるようになりました。

電車旅によって、車中親子でいろいろ話をするようになり、暴力は影を潜めていきました。

片づけは相変わらず苦手でしたが、友達ともうまく付き合い、バレンタインデーにはクラスの女の子からチョコレートを2つもらったと、自慢げに報告してくれて、相談は終了となりました。

彼本来の性格に周囲が気づき、大きな枠のなかで彼を育てることが、Eくんの衝動性を抑え、長所を引き出すことになったようです。

【写真】母親への暴力も影を潜めた
  母親への暴力も影を潜め、良好な親子関係につながった photo by gettyimages

〈基礎調査票〉〈評価シート〉への思い

〈基礎調査票〉〈評価シート〉は先生方ばかりでなく、ご両親や子どものことをよく知っているすべての大人に使っていただきたいと思っています。また、本書では、記入や評価のポイントのほか、子どもへの具体的な対応例なども詳しく解説しました。

今回新版となった『発達障害に気づいて・育てる完全ガイド』が子どもたちの健全な成長の助けになることを心より願っております。

 本記事でご紹介した書籍はこちら 

新版 発達障害に気づいて・育てる完全ガイド

著者:黒澤 礼子

発達障害を診断するテストのようなものは数多くありますが、専門的だったり、使いにくかったりしていませんか。本書の〈基礎調査票〉と〈評価シート〉は、発達障害を代表するASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などの特性把握のための質問項目が含まれ、結果をレーダーチャートでわかりやすく表示できます。その子のために、どのような支援ができるのか、傾向を把握して、対応策を考えましょう!