その中で、独自の評価シートとレーダチャートに基づき、その子にあった支援を助け、現場から高い評価を受けてきた『発達障害に気づいて・育てる完全ガイド』が新版として生まれ変わりました。2013年(日本版は2014年)に出された〈精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)〉にも対応しています。
本書の中から、その一部をご紹介しましょう。
平成19年、従来の普通教育のなかに特別支援教育が導入されるというニュースに、当時の私は危機感を覚えていました。発達障害の情報も充分ではなく、ベテランの専門家がまだまだ少ないなかで、現場で対応される先生方のことを考えたからです。
専門家ではなくても、発達障害の特性がどのくらいあるのかを、素早く把握し支援に反映できるアセスメントが、絶対に必要だと思いました。そこで、長年の特別支援教育研究会の活動や研究をまとめ、気になる子どもの性格や行動特性を把握する〈基礎調査票〉と〈評価シート〉を作成しました。
この〈基礎調査票〉と〈評価シート〉を軸にして2007年に『発達障害に気づいて・育てる完全ガイド』としてまとめ、出版したところ、幸いなことに、ひじょうに多くの教育現場で使われるようになりました。
発達障害の子どもたちのなかで、知的発達の遅れが目立たない子どもたちは、小学校に入学し、通常の学級に在籍しています。ところが、発達障害とは周囲からは気づかれにくいため、周囲からの理解や支援を得られず、授業についていけない、先生が対応しきれない、などの問題が生じる一方、性格やしつけのせいにされがちです。
早く周囲が気づき医療や療育的ケアにつなげていくことが何より大切なのです。
周囲が気づき、支援することがなぜ大切なのでしょうか。
近年、少子化の時代にもかかわらず、虐待や校内暴力の問題は増加を続け、各分野で解決に取り組んでいる人たちは、大変な苦労を強いられています。こうした社会問題の陰に、私は、ある共通のものの存在を感じるようになりました。それは発達障害です。
すべての問題について言えるわけではありませんが、発達障害の存在はけっして小さくないと感じるのです。発達障害が社会問題の原因ということではなく、うまく社会に適応できない、その陰に発達障害があるのではないかと、少しでも早く周囲の人々に気づいてほしいのです。
たとえば、児童虐待の要因として、いくつか挙げられているものを、以下の4グループに分けてみました。
これらのうち、いくつかの要因が重なると虐待のリスクが高まるといわれています。
虐待を受けた子どもの特徴に不安が強い、落ち着かないなどがあげられますが、これらは発達障害の特徴でもあり、この特徴が強いと、「かわいいと思えない!」と育児意欲を減退させてしまう母親もいます。3 の育てにくい子の要因があてはまるでしょう。
また、不登校や校内暴力・家庭内暴力も、そこにいたる前に発達障害の影響がある子どももいそうです。
発達障害は、「子どもと家庭」の問題ではなく、社会が気づき、スムーズな集団適応を支援していくことがより重要であるといえます。