家電業界騒然!Amazonが「原価売り」するたった1つの理由

それでも儲かる「巧妙なしくみ」
西田 宗千佳 プロフィール

アマゾンモデルが「唯一の正解」……ではない!

一方で、アマゾン的なビジネスモデルをあえて採らなかった企業もある。

Netflixだ。

同社は2000年代後半に、ディスクレンタルからネット配信へとビジネスモデルを切り換えた。その際、テレビでネット配信を見る専用端末を自社で製造・販売する「Project Griffin」という計画をもっていた。アマゾンが現在、Fire TVで行っているモデルに近い。

ところがNetflixは、2007年にこの計画を破棄し、社内にあった端末開発部隊をスピンアウトする。その会社は「Roku」。アメリカでは、低価格なテレビとセットで売られるネット配信端末のメーカーとして成功している。

【写真】アメリカで人気のネット配信端末「Roku」
  アメリカで人気のネット配信端末「Roku」 photo by getyimages

RokuはNetflixに限らず、複数のサービスが使える端末として販売されており、その自由さが魅力のひとつだ。一方でNetflixは、自社で端末をもたなかったがゆえに、多くの家電メーカーやスマホメーカーと協力し、「あらゆる端末で自社サービスが使える」という方針を貫き、やはり、こちらも成功している。

アマゾンのモデルはきわめて有用だが、それが唯一の解ではないことを、RokuとNetflixの例は示している。

【写真】テレビリモコンに専用ボタンが組み込まれる
  テレビ各社のリモコンに専用ボタンを搭載してもらうことで、「あらゆる端末で自社サービスが使える」ことを目指すNetflix photo by gettyimagers

それでもアマゾンが強い「もう1つの理由」

ところで、アマゾンのハードウエアが低価格であるのには、もうひとつ別の理由がある。その商品価値を、「ハードウエア自体」で担保していないことだ。

たとえば、スマートスピーカーである「Echo」の能力のほとんどは、アマゾンのクラウド上にあるサービス側で実現されている。前出のリンプ氏は、「ひんぱんなときには、毎週どころか毎日、Echoの機能を改善していた」と話す。

それができるのは、ハードの機能と使い勝手のほとんどをクラウド側のサービスに依存させており、ソフトの改善こそが、すべてのカギを握っているからである。

とはいうものの、ほとんどのハードウエアはそこまでシンプルではない。

テレビやスマホはディスプレイの映像品質が、スピーカーやヘッドホンならば音響品質が、その商品価値に大きな影響を与えている。それらのクオリティは、「ソフトを書き換えるだけで価値を高められる」わけではない。むしろ、ハードとソフトが一体化することで価値を生み出している商品群だ。

たとえば、スマートフォンのカメラ機能は、ハードとしての撮像素子と画像処理をするソフトの組み合わせで品質が決まる。Echo DotやFire TV Stickが「ソフトに特化して価値向上を図れる」のは、その商品性が特殊であるがゆえでもあるのだ。

逆にいえば、目や耳で感じる主観的な価値(官能的価値)が重要な、伝統的な要素を残す製品を売っている家電メーカーは、「ソフトでは向上できない部分」の価値を追求する必要があり、そうなると、「単に安い」家電はつくりづらい……、ということになる。

テレビメーカーが強いられる「苦渋の選択」

一方で、伝統的な家電であるテレビにおいても、クラウドで変化していくサービスを無視するのは難しい。ネット配信による映像サービスが視聴できないテレビなど、もはやありえないからだ。

だが、日々変化するサービスについていくには、ソフトの書き換えや進化が容易なプラットフォーム型でなければならない。過去のテレビは、家電メーカーが自前でカスタマイズした「組み込み用OS」を使っており、ネットサービスを追加・改善する場合には、テレビメーカー側のエンジニアが、各組み込み用OSを逐一、アップデートしていく必要があった。これでは、アマゾンのようなモデルに対してスピード面でかなうはずもない。

そこで、各テレビメーカーは2015年頃から、テレビのOSを「スマートフォン由来」「ウェブブラウザー由来」の技術に置き換えている。

ソニーやシャープは、スマホでお馴染みのOSであるAndroidを応用した「Android TV」を採用しており、パナソニックは、ウェブブラウザー由来の「Firefox OS」を改良したものを自社のテレビ用OSにしている。

こうしたOSを使うことで、動画配信用のアプリなどは「サービス提供側が開発・改良したものを、ユーザーが自分でインストールする」形に変えられる。メーカー側の負担を減らしたうえで、サービスの変化速度に追いついていくことが可能になるメリットが享受できるのだ。

一方で、動作速度は以前の製品よりも遅くなりやすいし、OS開発で他社と協業する場合には、自社の考えだけでテレビを開発することが難しくなる。デメリットも多々あるが、「過去のまま」でいるよりはマシ、という苦渋の選択をしているのだ。

【写真】変わっていくテレビのあり方
  テレビのあり方が変わっていく…… photo by gettyimages

家電業界はなぜ、厳しくなったのか?

OSやサービスは「プラットフォーム」だ。

プラットフォームをもっているということは、それだけビジネスプランの自由度が上がる、ということである。

アマゾンが家電で発揮する強みも、この点に尽きる。

日本の各メーカーは、「家電が人に提供する官能的価値」という面ではいまなお存在感を発揮しているものの、プラットフォーム型ビジネスに振り回されやすい環境になった結果、採りうるビジネスプランの選択肢が狭まっている。

「家電業界が厳しい」といわれることの本質は、まさにそこにある。

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