家電業界騒然!Amazonが「原価売り」するたった1つの理由

それでも儲かる「巧妙なしくみ」
西田 宗千佳 プロフィール

「ゲーム業界は赤字でハードを売っている」のウソ

アマゾンはなぜ、自社開発したハードウエアを安く売ることができるのか?

それは、Echo Dotをはじめとする各製品が、アマゾンが提供するネットワークサービスと連携しないと使えないものだからであり、まさに「使ってもらうことで儲ける」形の製品となっているからだ。

じつは、アマゾンが実践する「使ってもらって儲ける」形に近いビジネスモデルは、以前から存在していた。

たとえば、家庭用ゲーム機はゲームソフトウエアを買ってもらうことで収益を得ているし、携帯電話市場も、通話や通信サービスを使ってもらうことを前提に成り立っている。だから両者ともに、消費者から見ると、ハードウエアが本来もっている価値よりも安価に入手できている、という事情がある。

だが、家庭用ゲーム機や携帯電話は、「原価でハードを売っている」わけではないし、世の中で信じられているように「赤字でハードを売っている」わけでもない。

家庭用ゲーム機は、ユーザー一人あたりのゲーム購入量(「アタッチレート」などともよばれる)が決して高くない。マニアックなファンであれば毎週、毎月のようにソフトを買ってくれるだろうが、そうではない大半のライトユーザーは、年に数本以下しか買わないのがふつうだ。そのため、ソフトからの利益が大きくとも、それだけで高い収益が期待できるわけではない。

したがって、ハードウエアの利幅は薄いものの、基本的に「赤字販売」はしない。もしそれをしてしまうと、普及すればするほど経営が苦しくなるからだ。ハードとソフトの収益のミックスで儲け、さらに近年は、ネットワークサービスからの収益も加味して、長期的に利益を上げていくビジネスモデルになっている。

【写真】Amazon製品はなぜ安い?
  アマゾンの製品はなぜ安い? photo by gettyimages

「Kindle」に仕掛けられた巧妙なしくみ

一方の携帯電話は、スマートフォン時代とそれ以前とで、ビジネスモデルが大きく変化した。

スマートフォンの登場以前は、携帯電話事業者と端末そのものとの連携が強かったため、端末を売ることとサービスを売ることの関係性が深かった。当時の携帯電話端末のほとんどは、まず携帯電話会社に納入され、その後に「携帯電話会社の製品」として販売されていた。だから、携帯電話会社から見れば「端末の利益は薄くてもいい」状態だった。

だが、主力端末がスマートフォンになって以降、携帯電話事業者と端末の紐付きは弱くなった。長期契約に伴う割引などは存在しているが、スマートフォンはあくまで「メーカー側の製品」であり、利益の得られない価格で端末を売る必要はない。

アマゾンのビジネスモデルが成立するのは、あくまで「自社のサービス」に紐付いたハードウエアを提供するからであり、ユーザーがネットワークを介してサービスを使うこと、もっと正確にいえば「使い続けてくれること」で、トータルで見れば十分な利益が上がるからだ。

わかりやすいのが「Kindle」の例だ。

電子書籍端末としてKindleを選んだ人は、Kindleで本を読み続けるかぎり、アマゾンを使い続けることになる。「電子書籍以外、アマゾンの他のサービスは使わない」と割り切る人は少数で、多くの人は、それこそ家電製品を購入するなど、アマゾンが提供するさまざまなサービスを利用するだろう。

【写真】読者をアマゾンに囲い込む役割を果たす「Kindle」
  消費者をアマゾンに囲い込む役割を果たす「Kindle」 photo by gettyimages

顧客との関係を継続すればするほど、アマゾンには収益が蓄積することになるから、低価格・高品質なハードウエアを売ることは、長期的視点に立てばきっちり利益につながっている。

通販を軸に、ネットワーク上に多数のサービスを提供しているアマゾンだからこそ可能なビジネスモデル、ということもできる。