「30過ぎたら家を買え」は、一種のマインドコントロールだった

家賃を払うよりトクでしょ?は甘すぎる

リアル・マネーとヴァーチャル・マネー

家賃を自分に払うのと、他人に払うのとでは大きな違いのように思われるかもしれませんが、経済行為としては、両者はまったく同じことです。

次のように考えてみてください。

太郎さんが自分の不動産を他人に貸し出す目的で購入すれば、そこから年間250万円の家賃収入(リアル・マネー)を得ることができます。このとき、太郎さんの不動産投資は、年5%の利益を生んでいるということになります。

一方、太郎さんが、自分が住むために家を買った場合、家賃収入を得ることはできません。他人に貸さずに自分が住んでしまったために、年間250万円の収入を得る機会を逸してしまったということです。

 

ところが、太郎さんが自分で住んでいるのか、他人に貸しているのかは、不動産の価値に関係ありませんから、どちらも年5%の利益を太郎さんにもたらしていると考えたほうが合理的です。ただ、その利益を自分自身に「家賃」として支払ってしまうため、現実のお金が太郎さんの手元には残らないだけなのです。

不動産を他人に貸した場合は現実のお金(リアル・マネー)、自分に貸した場合は帳簿上のお金(ヴァーチャル・マネー)、ということです。

このように太郎さんは、購入した不動産を他人に賃貸しても、自分で住んでも、年5%の利益を得ることができます(もちろん実際には、太郎さんの不動産の資産価値は不動産市場の動向によって変動しますから、それによって投資利回りも変わります)。

ここまでわかれば、あとは簡単です。

もういちど、太郎さんと花子さんのバランスシートを見てください。花子さんは、不動産に投資する代わりに、有価証券を保有しています。そのほかの条件はまったく同じで、太郎さんの不動産が年250万円の家賃で貸し出せるとするならば(不動産投資利回り5%)、有価証券への投資利回りが年5%を上回れば花子さんのほうが有利だし、逆に5%を下回れば、太郎さんのほうが有利だということになります。

花子さんは、有価証券から年5%、すなわち250万円以上の利益をあげられれば、家賃を支払ったうえで、なおかつ手元に現金が残りますから、考えてみれば当たり前です(逆に5%を下回ると、キャッシュ収入からは家賃が払えなくなって赤字になります)。

このように、家賃支払いを考慮に入れたとしても、持ち家派の太郎さんと賃貸派の花子さんの資産運用にまったく優劣のないことは明らかです。

何千万円もする家を、耳を揃えてキャッシュで買える人はあまりいませんから、ふつうの人は住宅ローンを組んで、銀行や住宅金融公庫などから借金をすることになります。

今度は、太郎さんと花子さんがそれぞれ1000万円の預貯金を持っているとしましょう。

太郎さんは、その1000万円を頭金に4000万円を銀行(住宅金融公庫)から借り入れて、5000万円の家を購入しました。花子さんは1000万円の預貯金を有価証券の投資に回して、賃貸生活を続けることを選びました。図②が2人のバランスシートです。住宅ローン金利は3%(年間支払額120万円)ないしは4%(同160万円)とします。

太郎さんのバランスシートは、はじめて家を購入する人の、典型的なパターンだと思います。

ここでも、不動産営業マンの殺し文句は決まっています。賃貸生活を選んだ花子さんに対し、どんな営業マンも間違いなく、「こんなに金利が安いんだから、今の賃貸料で家が持てますよ」と力説します。こうしたセールストークに乗せられて、たいした貯金もない若いカップルが巨額のローンを組んでマンションを買っています。