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「30過ぎたら家を買え」は、一種のマインドコントロールだった

家賃を払うよりトクでしょ?は甘すぎる

持ち家と賃貸、どちらが正解か、は定期的に繰り返される議論の一つだ。作家の橘玲氏は「バランスシートで考えれば、住宅購入がどれだけリスクのあることかわかるはずだ」と明確に結論付ける。2003年に発売された『世界に一つしかない「黄金の人生設計」』から、住宅購入の是非について説いた必読のパートを、特別公開――。

「家を買う」は合理的か

この日本という国では、30歳をすぎる頃から、ほとんどの人が「家を持ちたい」という不可思議な衝動に駆られます。しかし、この衝動に合理的な根拠があるのかどうか、検証されることはめったにありませんでした。

なぜかというと、金融・建設・不動産業など、この国のドメスティックな(土着の)経済を支えている大きな部分が、「家を持て」「一国一城の主になれ」と国民をマインド・コントロールすることによって莫大な利益を得てきたからです。

各種の世論調査を見ると、バブル期に高値で住宅を購入してしまった人たちを除き、おおむね、「持ち家を買ってよかった」という結果が出ています。それに対して、資産価値の下落や住宅ローン破産の増加などを受けて最近ようやく風向きが変わってきたとはいっても、「生涯賃貸派」はまだまだ少数です。

 

ところで、家を購入した人が「自分の判断は正しかった」と回答する理由は、簡単な心理学で説明できます。

ふつうのサラリーマンにとって、家を買うということは、年収の4~5倍もの借金を背負い、生涯賃金の2~3割にも達する巨額の商品を購入するということですから、その判断は、まさに一世一代の決断のはずです。

こうした重大な局面においては、支払った代償の大きさが自分の判断を正当化するという、心理の錯覚が生じます。要するに、100円ショップでジャンク品を購入してしまったときには「くだらないものを衝動買いしてしまった」と冷静に判断することができた人でも、それが100万円の商品ならなかなか失敗を認められなくなり、1000万円の支出なら、なおさら自分の判断を正当化したくなるということです。

では次に、持ち家と賃貸のどちらが得か、具体的に比較してみましょう。

まず、もっとも単純なケースで考えてみます。

宝くじに当たったのか、お金持ちのおじさんの遺産が入ったのか、道端に落ちていたのを拾ったのかは問いませんが、とにかく、ここに5000万円の現金があるとします。では、この5000万円の現金で家を買ったほうが得でしょうか、それとも賃貸生活を続けたほうが得でしょうか?

「そんなの、家を買ったほうが得に決まってるよ」とあなたはいうかもしれません。なぜなら、家を買えば資産として残りますが、賃貸を続けていても、家賃を払い続けるだけであとには何も残らないからです。マンションを売り込もうとする営業マンがよくいうセリフです。

しかし、事情はそれほど簡単ではありません。

ここで、太郎さんと花子さんに登場してもらいます。

太郎さんは5000万円の現金で、迷わず不動産を買いました。太郎さんの手元には5000万円で買った不動産があり、現金はゼロです。これをバランスシート(貸借対照表=BS)にしてみたのが図①の左図です。

一方、花子さんはとりあえず賃貸マンションを借り、この5000万円を有価証券に投資しました。これをバランスシートにしてみたのが図①の右図です。

これを見れば一目瞭然ですが、図①の2つの図は、バランスシートとしては同じものです。太郎さんと花子さんの違いは、資産を不動産(ストック)で所有するか、有価証券などの流動資産(フロー)で所有するか、だけですから、優劣は、それぞれの資産が将来にわたってどれだけのキャッシュを生み出せるかにかかっています(不動産資産の運用利回りが金融資産の運用利回りを上回れば太郎さんが有利だし、その逆であれば花子さんが有利になる、ということです)。

しかしここでは将来のことは考慮していませんから、今の段階ではバランスシート上、持ち家にも賃貸にも何の違いもありません。

たったこれだけのことで、「持ち家のほうが賃貸より有利」という迷信は否定されてしまいます。簡単でしょ?