大阪のタコ焼き屋の摘発に、マルサの苦悩が見え隠れする理由

『ニュース女子』で語れなかった秘話
上田 二郎 プロフィール

このたびのタコ焼き屋の摘発に、マルサの苦悩が垣間見える。マルサは大口・悪質の脱税者に一罰百戒を与えることが目的だが、着手件数の低下に歯止めがかからないため、やむなく強制調査を行ったのだろう。私が現役の頃なら、悪質な手口ではないと判断され、ナサケとミの検討会を通らなかった事案だ。

そして、こんな事案の摘発ではなく、もっと社会の闇に潜む巨悪を捕まえてほしいと、世間はマルサに期待しているはずだ。マルサに配属されるのは税務署から選抜された調査官。税務署の調査能力の低下はマルサの力の低下につながる。

今回の事案は税務署の力が落ちたことの証明であり、「もっと腕を磨け!」とマルサが訴えているような気がしてならない。街へ出て行って、脱税者を拾ってくるアンテナを張った調査官の再生が急務なのだが、現場からはあきらめの声も聞こえてくる。このままでは申告納税制度の崩壊につながりかねない。

 

「マルサの女」の苦悩、トクシャの放尿

そもそもマルサは、今でも典型的な男社会だ。私がマルサに収監された1988年、東京国税局査察部の総員350名の中に女性は7~8名しかいなかった。

だが、強制調査では特殊関係人(愛人)などが衣服の中に通帳や印鑑を隠すケースもあるから、下着の中まで確認する必要がある。着衣の捜索が可能な「着衣令状」を持たせて配置する場合もあるため、特に実施班に「マルサの女」は無くてはならない。

今では各部門に1~2名、マルサ全体(560名)では約60名の女性査察官が配置され、男性にはない閃きを発揮しているが、その苦労は尽きない。私は内偵班の経験しかないが、張り込みや尾行は途中で止められず、徹夜や2日間ぶっ続けの張り込みもある。

『国税局査察部24時』より、内偵の一コマ(イラスト:福満しげゆき)

『ニュース女子』でのトクシャ(特殊自動車)の話はある程度のところでカットされたが、ツイッターなどに寄せられた視聴者の反応を見ると、トクシャについての関心はとても高かったようだ。

そこで、トクシャについて番組では語れなかったウラ話をしよう。トクシャを使った張り込みでの心配はいつも、ずばり、トイレだった。

ある日、査察官4人でライトバンの後部座席に潜んで、銀行前の張り込みをしていた時のこと。ターゲットに似た人物が現れ、2人が後を追った。残った2人で張り込みを続けたのだが、その後さらに似た人物が現れ、もう一人の査察官が追いかけることになり、私一人だけがトクシャに残された。

追跡した人物の素性が判明するまで解除されず、一人で5時間も張り込みを続けなければならなかったのだが、トイレに困った。勝手に持ち場を離れることは許されず、もうこれ以上我慢できない……。やむを得ず、中身のお茶を飲み干した500mlペットボトルに用を足した。

これを経験したことがある人は少ないと思うが、いざ用を足してみると、想像以上にこぼれて上手くいかない。「いったい俺はこんなところで何やってんだ……」と自己嫌悪に陥った数分後に、後から出動した先輩査察官が戻ってきた。

追跡した人物が別人だったことを確認し、一人で待っている私を心配して急いで戻ってきてくれたのだ。そして、先輩から追跡状況を聞かされるのだが、ほとんど耳に入らない。喉が渇いた先輩から、「そのペットボトルのお茶、ひと口くれ」と言われたらどうやって断ろうかと考え、ひやひやしていた。

深夜の張り込みは当たり前で、男なら携帯トイレを車に持ち込んで済ますこともできるが、女性ではそうはいかないだろう。こんな過酷な環境で、正義を貫くために頑張っている女性たちがいる事実も、もっと知ってほしい。

同時に、「マルサの女」たちには、長らく男社会だった現場に女性ならではの感性でドラスティックな調査技法を提案し、これまで見つけ出せなかった事案を掘り起こして「マルサ不要論」を吹き飛ばしてほしいと願っている。

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