大阪のタコ焼き屋の摘発に、マルサの苦悩が見え隠れする理由

『ニュース女子』で語れなかった秘話
上田 二郎 プロフィール

二つ目の理由について述べよう。

内偵調査はターゲットから話を聞くことも帳簿を見ることもなく、ときには1年以上もの歳月をかけて裏づけを取りながら進めるのだが、結局のところ推論に過ぎず、外れることもある。

ところが、全責任を負うのは令状をかざして踏み込む実施班だ。そのため、検討会では実施班が内偵調査の弱点を微に細に攻め込んで、しばしば紛糾する。検討会でのそうした対立こそが、無実の納税者に対する強制調査の抑止力になっているのだ。

マルサの強制調査は、有無を言わさず踏み込める強力な公権力の行使である。強制調査に入ったものの、脱税の事実がなく「間違えました」では済まされない。分業制にして、相反する立場の意見を戦わせることで、結果的に「ハズレ」をほとんどなくしているのである。

番組出演時の上田氏(DHCテレビ『ニュース女子』より)

公園のタコ焼き屋にマルサが入った!

ところが近年、強制調査の着手件数が減少傾向にある。昨今の経済取引の広域化、国際化、ICT化によって脱税手段が複雑・巧妙化していることが原因だ。これは、国税庁のデータにも現れている。

着手件数が減ると必ず台頭してくるのが「マルサ縮小論」だ。マルサは刑事罰の訴追を目的としているために手間がかかる。1件当たりの追徴税額や調査官1人当たりの調査件数をもって課税部と比較するべきものではないのだが、この数値を持ち出して後ろ向きの組織改編を唱えるのだ。

今後、マイナンバーでひもづけされれば、銀行口座の監視力が高まって、脱税が減少するとの意見が聞えてくるが、本当にそうだろうか? 

私にはそう思えない。

昨今の海外事案の高まりは、マイナンバーによって架空口座を使った脱税が封じられることを先取りし、捜査権限の及ばない海外に脱税手段を移した結果だ。脱税は7年間遡って調査される。頭のいいヤツらはそれをとっくに見越した動きをしているのだ。

一方で、私たちの記憶に新しいニュースとして、7月26日、大阪城址公園のタコ焼き屋が約1億3000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪で在宅起訴された。

事案の詳細はわからないが、報道によれば、同店は40年以上前から営業しており、20年ほど前からは、店舗を構えている。その間、消費税や従業員に対する源泉所得税の納付も怠ったのだから、厳罰に処されるのは当たり前だ。

数年前からのインバウンド効果で外国人団体が押し寄せたため、タコ焼きやホットドッグ、ソフトクリームが飛ぶように売れ、売り上げが急伸した。そして、マルサに狙われたのだが、パナマ文書やビットコインとは違い、単純無申告による脱税であり、「マルサが手を下すような事案なのか?」と疑問視する国税局OBもいる。

 

脱税者を見つける能力が低下している

それにしても「管轄する税務署はいったい何をしていたのか?」という疑問が湧く。

店は営業自粛に追い込まれたが、脱税額が大きくなる前に適正な調査をしていればこのような結果にならなかったはずで、言い方を変えれば、調査能力の低下が脱税者を作り出してしまったとも言える事案だ。

「儲かっていそうだな。どんな申告をしているのだろう?」と思う素朴な疑問から調査は始まる。KSK(国税総合管理システム)端末から、タコ焼き屋が無申告であることはすぐに判明する。

税務署はマルサのようにターゲットにばれないように調査をする必要がない。そのため、場所を提供していた豊国神社に誰が営業しているのかを聞きに行っても良いが、従業員を尾行すれば簡単に経営者を突きとめられる。

ところが、過去にKSKを私的に使用した事件があって、調査官が自由に検索できないよう制限をかけてから税務署の墜落が始まった。当時からマルサでは「調査を知らない奴らがバカな制限をかけた」と、このような事案が増えることを懸念していた。