子供に必ず一度は「セミが羽化する瞬間」を見せたほうがいい理由

生命の強さがよくわかる
青山 潤三 プロフィール

実は「地面で休む」ことがある

セミを見ればわかるとおり、半翅目の虫は総じて飛ぶのが下手ですが、最も上手なのは、意外にも水棲のカメムシの仲間である、アメンボです。

「飴ん棒」の名は、その細長い棒のような姿と、飴のような香りを放つことから名づけられたのですが、陸上性の他のカメムシ類の多くは、香りが強烈過ぎて、人々に嫌がられることが多いのは、ご存知の通りです。

カメムシの仲間は、セミとは違って、幼虫時代も活発に植物上などを動き回り、また一部の頚吻類のように幼虫が特殊な形状や性質を備えているわけではありません(成虫と幼虫は翅があるかないかの違い)。

しかし、強烈な匂いとともに、時には人の顔のような不思議な模様が背中に描かれていることで、外敵から身を守っているのだと思われます。

カメムシの一種の幼虫(筆者のアシスタントM撮影)

一方、ヨコバイやウンカの多くは、集団で移動し、栽培植物に対する害虫となっています。止まっているところに近づくと、くるりと茎の反対側に隠れて、鉄砲玉のようにピョンと飛んで行ったりします(「飛ぶ」というよりも「跳ぶ」というイメージ)。

その特徴はセミにも共有されているように思います。というのも、近づいて写真を撮影していると、セミたちは木の幹の裏側へジワジワと移ろうとするのです。

 

セミは「一生の大部分を地中で過ごす、基本的には土壌動物」と記しました。その特徴は、セミの一生の中ではわずかな時間でしかない、成虫になった後も引き継がれています。例えば、夜明け前と日没時に大合唱をするヒグラシの場合、通常、夜の間は樹木の根本や、あるいは地面の上に留まっています。

「えっ? セミは夜も木に止まって休むんじゃないの?」と思った読者も多いでしょう。たいていの図鑑にも、そう書いてあります。しかし実際には、夜間は地表で過ごすセミが多いのです。

ヒグラシに限らず、ハルゼミ、エゾハルゼミ、ツクツクボウシ属各種などは、夜、おおむね木の根元や地表の腐葉の上に移動します。日没時と夜明け時に大合唱を行う際、せわしく移動もしているのです(すごいスピードで飛び交っていることもある)。夏の早朝に山道を歩くと、足元から一斉にヒグラシが飛び立つこともあります。

こうしたことがあまり一般に知られていないのは「文献至上主義」の弊害なのではないでしょうか? 知っている人は知っているけれど、なぜか文献には記述がない。実際に自分の足と目で調べた実態よりも、どんなにソースが薄弱であっても「文献記述」のほうが価値がある、ということなのでしょうか…。

話がそれました。セミは大きいのでわかりづらいのですが、集団になる性質もヨコバイやウンカと共通しています。クマゼミは一本の木に鈴なりで群がって皆一斉に鳴いていますし、ヒグラシをはじめとする多くの種は、一定の広さの空間を一定時間おきに集団で移動しながら暮らしています。

ある樹木の幹にとまって鳴いていた個体が、鳴き終えてどこかに飛び去り、ほかの個体の鳴き声も周囲から全く聞こえなくなっても、辛抱強く待ち続けていると、数10分後に(ときには1時間以上たってから)まったく同じ位置に戻って来て、気が付いたらさっきと同じように鳴き続けているのです。まるで魔法を見ているようです。

そのほかにも、何頭もの個体がリレーしながら鳴き継いだり、時には完全にシンクロして「合唱」したりもします。次回はセミの鳴き声の不思議さについてお話ししましょう。(つづく)