子供に必ず一度は「セミが羽化する瞬間」を見せたほうがいい理由

生命の強さがよくわかる
青山 潤三 プロフィール

しばらくの間はエビ反りになってぶら下がっていますが、やがて一気に起き上がると、6本の脚を殻にかけて、頭を上にした普通の姿勢になります。

その間、数分から10数分。チョウなどの場合、サナギの殻からの脱出は一瞬の間に行われるため見逃してしまうことも多いのですが、セミの羽化はゆっくりなので、余裕をもって観察することができます。

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頭を上にした普通の姿勢になると、それまで付け根に縮まっていた4枚の翅(はね)が、徐々に伸びてきます。

翅が伸びきるまでは、種の違いにかかわらず、どの蝉も一様に、青緑や薄紅色を帯びた白い柔らかな翅と体をしています。

しかし時間が経つにつれて色づき始め、例えばアブラゼミでは、黒褐色の体に濃茶褐色の翅、ミンミンゼミならば、緑の紋様の体と透明な翅、というふうに、それぞれの種の特徴が明確に表れてきます(ちなみに、アブラゼミとミンミンゼミの幼虫は大きさも形もそっくりで、ほとんど見分けがつきません)。

日が昇るころには、柔らかかった体も硬くなり、手に乗っけて飛翔を促すと、元気よく天空に飛び立っていきます。

セミの劇的な羽化を観察することは、まさに生命の神秘を垣間見る体験でしょう。

 

セミの別名は「クジラ」?

さて、セミとその仲間について、少し専門的な解説もしておきましょう。

セミは分類上、半翅目(カメムシ目)というグループに属します。昆虫の中で、トンボやバッタやゴキブリは比較的原始的な段階にあり、チョウやハチやハエやカブトムシは、高等な段階にあるとされていて、セミはそれらの中間程度に位置付けられています。

一般的に言って、高等進化段階にある昆虫は、幼虫から成虫に至る変化が劇的で、下等な進化段階の昆虫は、変化が少ない傾向があります。例えば最も原始的な段階に位置付けられるトビムシなどは、卵から成虫に至るまで、ほぼ同じ形のまま、何度も脱皮を繰り返し成長してゆきます。

半翅目は、生涯にわたってあまり姿を変えないものが主流です(セミの場合、最後の最後だけ大きく変わりますが)。セミは、アワフキムシ、ツノゼミ、ヨコバイ、ミミズク、ハゴロモ、ウンカなどの仲間とともに、同翅亜目の頚吻群という分類群に所属します(近年は異なる見解も示されています)。

体長数mmから、せいぜい1cm程度の小さな種が大半を占める頚吻群の中にあって、セミは飛びぬけて大きく、「頚吻群のクジラ」と呼ばれたりもします(ちなみに「腹吻群」はアリマキやカイガラムシの仲間です)。

一方、同翅亜目と対をなす異翅亜目には、カメムシの仲間(水棲の種にタガメやアメンボがいる)が含まれます。同翅亜目と異翅亜目は、以前は明確に区分されていましたが、分子遺伝学的な解析結果からは、亜目を分けるような明確な差はないことが判明し、近年は区別しないのが普通のようです。

半翅目の虫には、特異な形質や性質を持っている種が数多くあります。

アワフキムシは、草の茎にくっついた泡の中に隠れて暮らしています。ツノゼミは、まるで昆虫界のダリやピカソと言いたくなるような奇妙奇天烈な姿で、マニアに大人気。

ツノゼミの一種(Photo by iStock )

「〜ハゴロモ」と名がつくウンカの仲間には、昆虫とは思えない異様な白い粉の塊を体中に纏った種があります。カイガラムシは堅い蠟状物質の中に潜み、ヨコバイの仲間の「〜ミミズク」と呼ばれる数種は、姿が樹皮に完全に溶け込んで、見つけ出すのが困難なほどです。