日本全土に大感染『カメラを止めるな!』爆発的ヒットはこう生まれた

上田慎一郎監督インタビュー
柴 那典 プロフィール

他の映画にない強さ

――6月23日に公開された後には観た人が周りに熱烈にオススメする現象が広まっていったわけですよね。僕自身、6月から7月にかけて「ネタバレしたくないから詳しくは説明しないけれど、とにかく観ろ」と周辺の5人くらいに言われました。

感染者ですね(笑)

――監督はそういった波紋のようなものが徐々に広がっていく様子も見ていたと思うんですが、それはどういうものでしたか?

10月に関係者試写会をやって、その後11月に6日間だけイベント上映をしたんです。最初はワークショップで作った映画を6日間そこでお披露目して、「頑張ったね」って言って終わりっていう想定だったんですよ。

ただ、そこで評判を呼んだので、本公開に繋がったんです。その後、海外の映画祭に行ったり試写会をやったりして、業界を中心に最初は水面下で広がって、公開してからガッと一般の方に火が点いたという感じです。

――6月から7月にかけては新宿のK’s Cinemaと池袋のシネマ・ロサの2館だけの公開でしたけれど、朝イチで映画館に電話してもすでに並んでいるようなことが続いていました。

最初にイベント上映した時も最終日は開館と同時に満席になりましたね。朝、5分くらいでチケットが完売して。短い期間の中でも広がっていったんです。

――しかも、『カメラを止めるな!』のいわゆる“感染者”は、毎日ツイッターで関連情報をツイートしたりしてますよね。

気に入ってくれた方は、この映画がどうなっていくのか、一緒に追ってくれてるんですよね。公開館数が増えた時も一緒に喜んでくれたりして。

アカウントの名前が「○○@カメ止め感染者」「○○@カメ止めを観ろ」みたいになっていたり、ヘッダーがカメ止め仕様になっていたり、毎日のようにファンアートが投稿されたりする。

これはすごいなあって思います。チームの仲間がどんどん増えていくような感じですね。

 

――普通、映画の宣伝や広報は配給会社の宣伝担当がいて、メディアがあって、それで伝わっていくというのがほとんどですけれども、この映画の場合は観た人が宣伝活動を自主的に買って出ている。

そこは全然狙ったわけじゃないですけど、他の映画にない強さになっているのかもしれないですね。

資本力で宣伝を打って、映画評論家が偉そうに言って広がるんじゃなく、お客さんが映画を広げるということができるんだなって。当たり前のことですけど、改めて思いましたね。

逆境が来た時にむしろ喜んでいる

――そういった状況を巻き起こしたのは、やっぱり作品の力が大きいと思うんです。ストーリーの面白さは何よりですが、印象的だったのが、ゾンビ映画でありながら悪役やイヤな性格を持った登場人物が出てこないということで。そこには監督の価値観とか考え方は関係していたりしますか?

過去の短編でも、悪役らしい悪役は出てこないんですよ。それは、自然とそうなったと思います。意図して書いてるわけではないですね。

でも、振り返っても、確かに悪役って書けないんだなって思います。今回も、プロデューサー役は主人公の妨害をするっていう意味では悪役とも言えるんですけれど。本当に嫌な悪役は、書けないんだと思います。

――トラブルを笑いに変えて乗り越える哲学のようなものが映画の根底にある感じがしました。

そうですね。僕、普段の生活でもあんまり嫌いっていう人がいないんですよ。面倒臭いなあって人はいるし……まあ、嫌いな人もいるか(笑)

でも、嫌いな人がいたり、ムカつくことがあっても、家に帰って妻に「こんなことあってさあ」って喋ってると、そいつが愛おしくなってきたりするんですよね、それは自分の思考がそうなってるのかもしれないですね。

20歳から25歳くらいまで、詐欺に騙されたり、ホームレスをしていた時があって。そこで毎日ブログを書いていたんです。

食べるものがない、頭が回らなくなってきたって、普通に考えたらキツいじゃないですか。でも、それをブログに書くのは、ネタとしていいじゃないですか。滑稽というか。

一歩引いて自分を見た時に、コメディにして、それをブログにアウトプットして、エンタテインメントにして書いてたんです。どんなに悪いこと、バッドなことがあっても、コメディのネタになったので、結果的には悪いことが起こらない。

――そういう感覚が、映画を作る全然前にあった。

そうですね。逆境が来た時にむしろ喜んでいるところは、学生時代からあったと思います。上手くいきすぎる方が不安というか。「お、来たねピンチ! 遅かったねピンチ!」っていう(笑)。