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腎臓再生で「腎不全死ゼロ」社会は来るか‥‥医師の挑戦

全国33万人の人工透析患者に朗報 

移植手術はごくシンプル

「今や、世界の腎臓病患者は8億5000万人に達し、うち腎不全で透析療法や腎移植を必要とする患者は530万~1050万人と推定される」――去る6月、国際腎臓学会はこう警鐘を鳴らした。

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病によって発症リスクが高まる慢性腎臓病。進行が進み、末期腎不全になると、体内の老廃物を充分に排出できず、「人工透析」「腎移植」のいずれかが必要となる。

日本の現状も厳しく、透析医療の進歩にかかわらず、約33万人が週3回、一回4時間の透析治療を受けている。1級障害者に認定されるため医療費は月1万~2万円で済む。

しかしながら、透析のために病院に通い、時間を拘束されるなど、患者のQOL(生活の質)の著しい低下が強いられる。また、腎移植の希望者が1万人を超える一方で、ドナーは圧倒的に不足しており、いつ順番が回ってくるかもわからない。

 

こうした国内外の深刻な状況を打破すべく、研究を進めてきたのが東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科主任教授の横尾隆氏だ。

昨年11月には、ラットによる腎臓再生に成功。これまで、その構造の複雑さゆえに「再生は不可能」とされていた常識を覆した。その方法は実にユニークなものだ。
横尾氏が解説する。

「患者さんのiPS細胞から、『腎臓の芽』となる前駆細胞を作製します。また、遺伝子操作したブタの胎児から腎臓が育つ場所を取り出しておく。そのなかで前駆細胞を育て、患者さんの体内に移植します。

あとは、薬剤でブタ由来の前駆細胞を除去すれば、100%患者由来に置き換わった腎臓の芽が、成熟して腎臓になるというわけです。尿が作られるということを確認して尿管とつなぎ、膀胱から尿が出るようになったら再生完了です」(下図参照)

移植手術は腹腔鏡で、極小の「腎臓の芽」を腹部大動脈の近くに張り付けるだけというシンプルなもの。100万円程度の経費を想定している。

現在透析患者一人に対してかかる医療費は、年間約500万円。それを国がほぼ負担し、その額は実に1兆4000億円以上にまで膨らんでいる。さらに透析患者の平均年齢は68.15歳と高齢化も進む。

超高齢化社会に突入し、これからますます医療費が増大するなか、再生腎臓の実用化は費用削減効果の面からも期待が大きい。

腎臓再生は理論上可能となった。次の段階はいよいよ臨床研究だ。

「人間に使っていい品質の前駆細胞を作る施設と、一般的な動物とは異なる、無菌状態のブタを飼育できる施設が必要となります。この2つを整えられれば、その後の臨床試験は一気に進むはずです」(横尾氏・以下同)