日本人は本当に「ウォーギルトプログラム」でGHQに洗脳されたのか

「戦争の有罪性」がもつ真の意味
賀茂 道子 プロフィール

同時に、占領方針が日本側に配慮した宥和路線へと変化したこともあり、しだいに「ウォー・ギルト・プログラム」はGHQの重点政策から外れていった。ただし、東京裁判が開始され、BC級戦犯を裁く横浜裁判も継続中であったことから、両裁判の目的を理解させるために裁判報告のラジオ番組は継続された。

その後、東京裁判の判決を前に、一部の国民の間で東條英機を賛美する傾向が見られたことから、再度プログラムを活性化する提案が出された。だが、結局それは計画倒れに終わった。

ただし、プログラム自体は細々と横浜裁判が終了するまでは行われていたようである。もっともそれは、占領開始直後に見られた、「敗戦の真実」と「戦争の有罪性」を理解させるために積極的に情報発信を行う、初期のプログラムとは異なったものであった。

 

私たちは「洗脳された」のか?

ところで、読者にとって最も関心があるのは、「ウォー・ギルト・プロラム」は日本人にどのような影響を与えたのか、つまるところは日本人が「洗脳」されたのかどうかではないだろうか。

「ウォー・ギルト・プログラム」が、GHQに都合の良い情報のみを発信したという点において、プロパガンダであったことに疑う余地はない。

だがその影響、とりわけ「洗脳」に関して、筆者がここで資料に基づいた学術的な検証結果を示すことは難しい。そもそも「洗脳」という言葉をどう定義するのかによって答えが変わるうえに、こうした検証には社会学および心理学からのアプローチも必要になるからである。

ただ一つ確かに言えることは、「ウォー・ギルト・プログラム」で重視された捕虜虐待の罪に関していえば、日本人が理解したとは言い難いということである。

占領終了後、戦犯救済運動が盛り上がり、多くのBC級戦犯が赦免された。この運動の背景には、残された戦犯家族の恩給問題もあったが、それ以上に、捕虜虐待に関する罪が理解されていないことがあった。とりわけ、上官から命じられて虐待行為を行ったものに対しては、同情すら向けられていた。

現在では、捕虜虐待の事実は忘れ去られているに等しい。昭和天皇や今上天皇の欧州訪問時に、英蘭の退役軍人が抗議の意思を表した事実や、オバマ大統領の広島訪問時に、米国の退役軍人が日本軍に虐待された捕虜の同行を求めた事実に対し、いったいどれほどの日本人が関心を払ったであろうか。

また日本人は今でも、上から命じられて行った行為に対しては、たとえそれが罪であろうと、寛容である。

占領期に、日本人に「敗戦の真実」と「戦争の有罪性」を認識させるために行われた情報教育政策「ウォー・ギルト・プログラム」は、「軍国主義を排除して、二度と米国の脅威とならない民主主義国家を作る」という米国の国益のために行われたものである。その一方で人道的理念にも支えられていたものであった。

終戦前の対日心理作戦から日本人に向き合い、原爆投下という自らの非人道的行為に苦悩しつつもプログラムを推進したブラッドフォード・スミスやスタッフは、今頃雲の上から現在の日本に対して、何を思っているのだろうか。