あなたが必死になる「脳トレ」が無意味かもしれない科学的理由

ラボ・フェイク 第7回
伊与原 新 プロフィール

「ゲーム脳」と「スマホ脳」

「脳トレ」では、前頭葉が活発に働くことが良いこととされた。であれば当然、それが働かないことの害悪を説く言説も存在する。その代表例が、「ゲーム脳」である。このキャッチーな言葉は、2002年にベストセラーとなった森昭雄著『ゲーム脳の恐怖』の中で提唱されたものだ。

コンピューターゲームが脳に悪影響を及ぼす(より過激には、脳を壊す)というこの言説は、ゲーム世代ではない大人たちの感覚にしっくりきたのだろう。かつては教育現場でも広く信じられ、「ゲーム脳」の危険性を説くプリントを配布した小中学校もあったという。

「ゲーム脳」については現在、ニセ科学であるという評価がほぼ定まっている。理由としては、『ゲーム脳の恐怖』の中に数々の科学的な誤りがあること、根拠とされた脳波測定データの信頼性が乏しいことなど、いくつかある。加えて、「脳トレ」と同じような飛躍のあるロジックが使われていることも見逃せない。

 

「ゲーム脳」言説では、「プレイ時における前頭前野の活動低下によって、その機能が損なわれる」とされている。しかし、前頭前野の活動低下が本当に起きているとしても、それはあくまで一時的なものだ。

前頭葉の活動は一日の中で目まぐるしく変化する。考えごとをしているときは活動が高まり、安静時には低下する。前頭葉の一時的な活性化はその機能を向上させたりしないと前述したが、それと同じだ。前頭葉の一時的な活動低下がその機能にダメージを与えるようなことはない。

「ゲーム脳」がもてはやされていた当時、マスコミや評論家の一部は、少年の凶悪犯罪や引きこもりの原因をそれに押しつけた。子どもたちを取り巻く環境の変化は、彼らの心や精神を何らかの形で歪ませているに違いない。そんな思い込みにお墨つきを与えてくれる"脳科学"を、皆が欲していたのだ。

いい大人までもがゲームに興じている昨今、「ゲーム脳」はもう古い。これからは、「スマホ脳」である。青少年が長時間張りついているスマホとSNSが、脳に何か悪さをしているのではないか。そんな研究があちこちで始まっているが、わかっていることはまだ少ない。

自分の投稿した写真に「いいね」がつくと、報酬に関わる腹側線条体という脳領域が反応を示す。スマホを長時間チェックできないでいると、コルチゾールというホルモンが副腎から脳に放出されるが、それが前頭前野の発達に影響を及ぼす可能性を指摘している研究者もいる。

比較的よく調べられているのは、うつ病や不安障害との関係だ。「スマホの使用時間が長い青少年ほど、うつ状態に陥りやすい」ということだが、明らかなのはそこに相関があるということだけで、因果関係は定かでない。

もしかしたら、うつ状態で引きこもりがちだからこそ、ベッドでスマホをいじる時間が増えているだけかもしれない。あるいは、スマホが脳に直接作用しているわけではなく、SNSや動画に深夜まで囚われて慢性的な睡眠不足に陥ることで、うつ病などの精神障害が生じている可能性もあるという。

「脳スキャン画像」の罠

脳に関する情報が氾濫しているせいだろう。どうやら我々は皆、「ニューロフィリア(脳嗜好性)」に陥りつつあるらしい。個人の能力、性格、行動から社会現象にいたるまで、すべてに脳科学による説明を求めたくなる状態のことだ。

ただし、その説明は「脳科学風」でありさえすればよい。このことを立証した研究がある。論理的に正しい説明文と、正しくない説明文を用意し、一般の被験者たちに読ませると、彼らはその良し悪しを正しく判定する。ところが、二つの説明文に同じ脳科学的記述を挿入したところ、どちらも良い説明文だと評価するようになったのだ。

こんな研究もある。架空の科学記事を被験者たちに読ませ、その内容に同意できるかどうかを問う実験だ。被験者の半数には文章だけの記事を渡し、半数にはそれに脳画像をつけた記事を与えたところ、内容に同意した人数は後者のグループのほうが多かった。ちなみに、添える図が棒グラフの場合、同意した人数にほとんど差は見られない。

[写真]脳機能をイメージングする技術は日進月歩。だが、それが脳機能をイメージングする技術は日進月歩。だが、それが"科学らしさ"を生み出す演出に使われてしまうこともある(Photo by GettyImages、写真は本文と直接関係ありません)

このように、fMRIなどによる脳スキャン画像が人々に与えるインパクトは大きい。カラフルに色づけされた画像を見せられ、「ほら、ここが光っているでしょう? この脳領域は〇〇の機能と関係していて……」とやられると、誰でもたいていのことは鵜呑みにしてしまう。