終戦わずか2週間後「東京の慰安婦」は米軍のいけにえにされた

「次から次へ、体じゅう痛くて…」
貴志 謙介 プロフィール

いまも残る「東京ブラックホール」

戦後ゼロ年のブラックホールに迷い込んだのは、国家の「いけにえ」となった女性ばかりではない。占領下の東京には、いたるところに、ブラックホールが存在していた。

あらたに発掘された映像からも、その痕跡がみつかる。たとえば、東京湾から引き揚げられた大量の金塊の映像。数兆円にもおよぶ日本軍の隠匿物資の一部である。もとはといえば、本土決戦のために軍が国民から徴用した物資であり、こうした莫大な財産は国民には返還されず、高級軍人や官僚など特権階級に横領されて、ヤミ市に横流しされていたのである。

戦後ゼロ年、飢餓やインフレは、戦争中より深刻だった。もし、隠匿物資が国民を救うために使われていたら、どれほど多くの戦災者が救われていたことだろう。

人々を苦しめた敗戦直後の地獄は、物資の隠匿に狂奔したエリートの不正によってもたらされたのである。その事実を、私たちの記憶のなかに、あらためて刻み込んでおかなくてはならない。

 

膨大なCIA文書から、戦後ゼロ年にどのような権力構造が生まれていたかを知ることもできる。たとえば、占領軍は、表向きは「日本を民主化し、軍国主義者を追放する」政策を推進したが、裏では大本営の参謀を戦犯の訴追から外し、対ソ諜報戦の手先にしていた。

米軍の諜報機関に囲い込まれた軍や特務機関の残党は、アメリカの後ろ盾を利用して密輸や謀略を重ね、密かに影響力を拡大していく。軍国主義の残党、ヤミ成金、官僚や政治家を問わず、占領軍に深く食い込んだ者だけが権力を確保し、利権を得た。

こうして戦後ゼロ年を出発点として、アメリカの秘密工作に積極的に協力した日本の支配層との合作で「世界最大の親米国家ニッポン」が造られていく。そのときできあがった権力構造のDNAは、いまも日本を支配している。

戦後ゼロ年は、戦前のしがらみを断ち切った年ではなく、むしろそれを温存し、戦争を推進した旧支配層を取り込んで、アメリカの国益に沿った日本社会の改造が開始された年だったのである。

『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』という本では、いままで視界から失われていた闇を見つめ、わたしたちの記憶の欠落を埋めていくことを試みた。復元された戦後ゼロ年の姿を現在の日本と重ね合わせれば、いまの日本を呪縛する仕掛けも見えてくるにちがいない。