放送作家・鈴木おさむが「子供の貧困」漫画の原作に挑んだワケ

「漫画の世界をなんとかしたいんです」
現代ビジネス編集部 プロフィール

子供の貧困を描く理由

作品に携わるときには、「なぜ今それをやるのか」を大事にしています。今回、女の子が読む漫画雑誌で、格差社会を描く作品を連載するということはすごく意味があることだと思いました。

最近思うのが、「10年前に持っていた危機感が、ついに現実になってしまった」ということです。今年の夏はとても暑いですが、10年ぐらい前から叫ばれていた温暖化が、ついに危険な水準にまできたのかもしれない。

 

格差社会もそうです。いま、日本の子どもの6人に1人が貧困だと言われています。思えば、ワーキングプアや派遣切り、自分たちのすぐ近くに貧困は存在するんだ、と気づかされるような問題は2000年代に起こっていた。それからも歯止めがきかず、貧困が子どもにまで及んでしまった。僕にも子どもがいますから、他人事とは思えませんし、なにか自分なりに、この問題を社会に訴える方法はないものかな、と常々考えていました。

そんなタイミングで「なかよし」の編集部から「格差社会をテーマにした漫画の原作をやりませんか」とオファーが来たんです。最初は困りました。「なんで僕に?」って。

それで「なかよし」の編集者と実際に会って話してみると、僕が脚本を書いたドラマ『奪い愛、冬』を見て、漫画原作のオファーをしたって言うんですよ。

驚きでした。あのドラマは、もうホラーに感じるくらい振り切れたキャラクターたちの、ドロドロの愛憎劇なんです。たとえば第3話では、夫が元カノとキスしていてるところに、クローゼットから、妻の水野美紀さんが「ここにいるよー」と出てくるシーンもあるくらいで(笑)。

『奪い愛、冬』には僕も手応えを感じたし、水野さんたちキャストやスタッフもすごく楽しんで全力で演技をしてくれた。そんなドラマを面白がってくれた漫画の編集者が持ってきてくれた話だから、恐らく僕のことも分かってくれるはずだ。僕のやろうとすることも理解してくれるはずだ……そう思って、連載を受けることにしました。

僕はもともと、「子ども専用の職業あっせん施設……『チャイルドハローワーク』があったら面白いな」というアイデアを温めていて、それを『奪い愛、冬』のようなテイストで漫画にしたら面白いんじゃないかと提案したんです。それで始まったのが『秘密のチャイハロ』です。

主人公の愛川愛は、お金を稼ぐために、毎回毎回、本当に苦しい思いをします。家が貧乏で、母親が病気を患っていて、居候先の家族にこれでもかというぐらいいじめられている。そんな少女に労働の苦しみまで味わわせるのは酷ではありますが、しかし、彼女はそこから逃げられません。それが、いまの貧困の恐ろしさなんです。彼女の苦しみを通じて、いまの貧困問題を描きたかった。

子ども向けの作品ですが、大人が読んでも十分に面白い作品になっています。もしかしたら、親が読むと眉をひそめてしまうシーンがあるかもしれません。かなり残酷な内容ではありますからね。

たとえば、主人公の愛が「チャイハロ」で入会の試験を受ける際、まず、彼女が苦手なゴーヤを食べさせます。そのあとで、チャイハロの社長が

「100万円ほしければ、ここにいまさっき食べたゴーヤを吐け!」

と命じるシーンがあります。これなんかは「下品だ」と批判を浴びるかもしれない。でも、最後まで読んでみてください。そこには、「労働とはなにか」「お金を稼ぐとはどういうことなのか」というメッセージを必ず組み込んでいる。残酷さの中にも救いを用意していますから。

(『秘密のチャイハロ』試し読みはこちらをクリック