けじめのために籍は抜き別居するけれども、子どもにも誰にも離婚したことは言わない

復縁の可能性も残しておきたいから当分、財産は動かさない

財産分与を求めるつもりはなかったが、自分で貯めたお金くらいは手元に置きたかった。何歳まででも働ける限り働くつもりでいたけれど、病気や老後が心配だった。子どもに迷惑をかけるわけにはいかない。

それでも、いますぐ生活する程度の蓄えはあり、お金が必要だというわけではなかった。だから、財産を動かさないという言葉を、愚かにも信じた。子どもへの伝え方もお金のことも、互いの気持ちが落ち着いてから、きちんと話し合って決めればいい――。

有り得ない、といまは思う。なぜ気づかなかったのだろう。話し合いができなかった夫婦が、夫に疑問点を問うこともできなかった夫婦が、離婚したからといって話し合えるようになるわけがないのに。

元夫に縛られながらも守られながら、のほほんと25 年間を過ごしてきたわたしは、性善説の塊だった。わたしからの愛を失って苦しんでいる元夫を気の毒に思い、だから時間が必要なのだと解釈した。離婚してそれぞれの生活が始まれば、子どもを挟んでのよい関係が築けるかもしれない。海外ドラマには、そんな元夫婦がいくらでも出てくるじゃないか。

まさか元夫がわたしを陥れるとは思ってもみなかった。元夫はわたしの実印と通帳を勝手に持ち出し、着々と財産を動かしていた

「やり直そう」猫なで声の裏で

いくら夫婦でも、していいことと悪いことがある。登記簿謄本のコピーを手に入れ、手帳や日記を引っ張り出して付き合わせてみた。

自宅不動産のわたし名義を移転したこの日も、わたし名義の通帳からお金を払い出したこの日も、元夫はわたしに「やり直そう」「おまえの気持ちが戻るまで待つ」と猫なで声でささやいていた。その裏で、こんなことをしていたとは。その二面性に震える。

不動産やお金だけではない。元夫は子どもや親、友だちまでも巻き込み、あらゆる手段でわたしから大事なものを奪おうとしていた。子どもの前で「母親に男がいる」と泣いて見せ、子どもの心をわたしから離そうとした。わたしの母にその人の身元を調べた探偵まがいの書類を送りつけ、母娘の関係を険悪にした。わたしの友だちを訪ねて、その人の情報を聞き出していた。パズルのピースがはまるように、いろいろな事実が判明していった。

「どういうことですか」と、わたしは元夫にメールした。はじめ返信はなかった。そこであらためて、事実関係を問いただす文書をつくってメールした。今度は返信があった。「メールをくれているようですが、言い合いになってしまうので読まずにおきます」。

その後もメールのやりとりは続いたが、元夫はのらりくらりと逃げていた。法的手段に訴えるとも伝えてみた。それにも反応は薄かった。こんな騙し討ちをされて、わたしが怒らないとでも思っているのか。

「財産に手をつけずにおこう」と提案をした元夫は、いつの間にか藤野さんの実印と通帳を持ち出して引き出していた Photo by iStock