中国の反日感情を超えた日本人ボクサー・木村翔が見る夢

大陸で初の世界防衛に成功

中国で卓球の福原愛、サッカーの本田圭佑に次ぐ人気の日本人スポーツ選手――。ボクシングWBO世界フライ級王者の木村翔(青木ジム)。日本で知名度が高いとは言い難い彼がなぜ中国で愛されているのか。7月27日、中国・青島で行われた防衛戦に同行した記者がリポートする。

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中国人がなぜ日本人ボクサーに魅力を感じるのか

昨年7月28日以来、ちょうど1年ぶりとなる中国での試合。前回は五輪2大会連続金メダリストで中国の国民的英雄、世界王者・鄒市明(ゾウ・シミン)の「噛ませ犬」。その試合で11回TKO勝ちの番狂わせを起こし、今回は「中国で愛される王者」としての防衛戦。立場を変えて、再び中国の地を踏んだ。

木村はどれほどの人気を誇り、中国人は何に関心があるのか。その答えの一端は試合2日前の記者会見と公開練習で垣間見えた。会場のジムを訪れると、壁には5人のボクサーのポスターが飾ってある。パッキャオ、メイウェザー、タイソン、ホリフィールド、そして木村翔。世界のスーパースターとともに並んでいることに驚く。会見には40人以上の中国メディアが集まり、矢継ぎ早に木村に質問を重ねていく。

40人以上の報道陣が木村の記者会見に集まった(木村翔撮影)

――チャンピオンになって一番変わったことは。王者になって買ったものはあるか?
「変わったことは新しい家に住めたこと。あとは、アルバイトはもうしていません。ファイトマネーで暮らしています。だから絶対に勝たなくてはいけないんです。買った物は電動自転車くらい。あとは買っていないです」

昨年、王座に挑戦したとき、木村は家賃5万円、5畳ワンルームのアパートで暮らし、朝7時から午後3時まで運送会社のアルバイトに励んでいた。そんな雑草のボクサーがエリートのゾウを倒した。そこに中国人は感情移入していったという。木村が世界王者となり、生活がどう変化したのか。チャイニーズドリームをつかんだのかを知りたいのだろう。

――中国でリアルな「ロッキー」と言われているが、どう思うか。
「そうですね。リアル・ロッキーと言われているようですが、僕は(映画の)ロッキーを見たことがないので、ちょっとそれは分からないですね」

ほんわかとした回答に会見場がドッと沸き、笑いに包まれる。

――試合前にお母さんのお墓参りに行く習慣がありますよね。今回も行ったのか。どのような言葉をかけたのか。
「2週間前くらいに行ってきました。言葉というか、僕は天国まで木村翔という名前が届くように頑張っている。今回もそう。天国まで届くようにやるだけです」

学生時代、ヤンチャだった木村に母は真正面からぶつかってきてくれた。亡き母に恩返しをするため、世界チャンピオンを夢見て歩んできた。そんなサイドストーリーまで知られている。

――聞いていいのか分からないが、彼女はいるのか?
「彼女はいないです。そこは変わっていない。ボクサーには遊ぶ時間がないので」

対戦相手の印象や作戦などボクシングに関する質問は一切ない。木村のプライベートをストレートに聞いていく。通常、日本で試合2日前の会見といえば、ボクサーも報道陣もピリピリムードが漂う。しかし、周囲には緊張感がまったくない。中国のメディアにとって、木村は厳しい減量に耐え、命を懸けてリングに上がるボクサーというより、コンサートやイベントに出場する「外国人タレント」のような存在なのだろうか。

木村と親しい中国大手メディア「sina新浪」の周超(シュウ・チョウ)記者が解説する。

「中国の人たちは彼の人間性に興味があるんです。中国でプロスポーツ選手といえば、スポーツカーに乗って、綺麗な女性と付き合って…と思っている。でも木村さんは貧乏で、チャンピオンになってもアルバイトをしなくてはならなかった。われわれと同じような生活なんだと驚いた。自分たちと木村さんを重ねているところがある。謙虚で努力家。だからみんなが好きになる」