なぜドイツ政府は「送電線会社」の株を10億ユーロで買ったのか

その後どうするつもりかは不明だが…
川口 マーン 惠美 プロフィール

国家にとっての送電線の重要性

しかし、本当に議論されるべきは、アルトマイヤー大臣の「トリック」ではなく、電気や水道といった国家の最重要インフラを、中国であれ、ロシアであれ、あるいはEUの同盟国であれ、外国に委ねてしまって良いものかということではないか。

思えば日本が自由化の波に揺られていた2000年代の始め、米のエネルギー複合企業エンロンが日本の電力業界に乗り込んでこようとしたことがあった。

同社はアメリカで様々な違法行為で、株価や、電力の卸価格の操作を繰り返し、電力事情を混乱に陥れた。2000年夏のカリフォルニアの大停電も、同社が利益をさらに増やそうとして、電気を止めてしまったことで被害が拡大した。

日本での投資計画は、幸いなことに実現しないまま、同社は2001年12月に破綻したが、このような会社が日本の電力業界に参入していたら、大変なことになっていた。

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ドイツ政府も、今になって送電線の重要性に気づいたのか、「送電線は電力供給の背骨」とか、「国民も経済界も、安定したエネルギー供給を欲している」などと言い出したが、ハンブルク、ベルリン、旧東独地域の電力供給を担っているVattenfall社も、実はすでに100%スウェーデンの国営エネルギーコンツェルンの所有だ。

 

現在、保護主義という言葉は否定的な意味だけで使われがちだが、国家同士の利害が究極的に対立すれば、同盟国であろうが、なかろうが、どの国も自国の利益と安全を守るために、自国ファーストになるし、ならなければ嘘だ。

もし、そういう事態が起こったとき、電力が他国のコントロール下にあるなどということは、まさに悪夢ではないか。国家には、自由化して良いものと、しないほうが良いものがある。

それはそうと、ドイツ政府は、買い取った50Hertzの株をどうするつもりなのだろう? 企業間の自由な競争を促すための自由化だったはずなのに、国が買収したとは、何だか本末転倒な話だ。経過を見守りたい。