運動指導ナシの園の子の方が能力が高い

特に、運動能力の発達については、きちんとした研究結果があります。

東京学芸大学名誉教授の杉原隆氏らによる大規模調査によれば、「運動指導」を行っている園と行っていない園の子どもとを比較したところ、なんと、運動指導を行っていない園の子どもたちの方が運動能力が高く、また運動指導を行う回数が多ければ多いほど、運動能力が低い、という驚くべき結果が出ています。

さらに同じ調査では、子ども同士で遊びを決めていることが多い園の子どもの方が、少ない園の子どもよりも運動能力が格段に良い、という結果も出ています(「幼児の運動能力と運動指導ならびに性格との関係」『体育の科学』60(5))。

また、幼稚園や保育園での子どものケガについて調べたところ、子どもの発達や体力を無視したやらせる幼児教育・保育によって、大腿骨骨折などの大きなケガが起きていることもわかっています(猪熊弘子『子ども安全学研究会』日本子ども安全学会 第43号2017年)。

子どもたちの文字を読む力の発達についても同じことがいえます。日本、韓国、中国、ベトナム、モンゴルに住む3〜5歳児(各4000人ずつ)について、読み書き能力や語彙能力などを測定する調査を行った、元お茶の水女子大学教授で発達心理学者の内田伸子氏らによれば、学習系の習い事をしている子と芸術や運動系の習い事をしている子の語彙得点に差はない、という結果を得たそうです。(浜野隆、内田伸子「幼児期における読み書き能力の獲得過程とその環境要 因の影響に関する国際比較研究」2012年)。

また、一斉保育で小学校先取りの勉強をしている子どもと、主体的な自由遊びが多い園の子どもの読み書き能力と語彙力を比較した結果は、勉強を教えない園の子どものほうが語彙力は高いという結果が出ました。フラッシュカードやガジェット類を使って、子どもが見たモノを瞬間的に言えるような「芸」を身につけさせても、それは永続的な力にはならないのです。

そう、子どもたちが自分の発達に従って、自由に、そして主体的に遊んでいる園の方が安全で、子どもの力が伸びるのです。世の中には親の不安をあおるビジネスがたくさんありますが、「天才を育てる」とうたう幼稚園や保育園も、そういった「不安ビジネス」的な要素を持っているかもしれません。わが子の主体的な力をもっと信じてみませんか。

大切なのは「プロセス」  

私たち大人は、子どもたちが必死に何かしている様子に弱いものです。たとえば「鼓笛」もそのひとつです。子ども達が必死に、一糸乱れぬ隊列を作っているような姿には、つい感動してしまうものです。しかし、もしその姿が、時には暴力的に厳しくたたき込まれ、動物のように調教された子どもたちの姿であったらどうでしょうか? 私たちは親として、外からは気付きにくいそのプロセスにまで、心を馳せなければなりません。

「鼓笛」が全て悪いと言っているのではありません。主体性を大切にしている園では、「鼓笛」でも、子どもたちの主体性を重んじています。子どもの「遊び」の一環として、自分がやりたい楽器や曲を選ぶなどしながら、楽しみながら自主的に行われている園もあります。そういった取入れ方であれば子どもたちも楽しく活動することができて、良い影響につながるかもしれません。つまり、「どのように導入しているか」のプロセスが重要なのです。

これから、秋になると運動会や発表会など、園の活動を観ることができるチャンスがたくさんあります。そういった機会に、子どもたちや先生たちが、楽しそうに笑って活動しているか、逆に何かにおびえてビクビクしながら活動していないか、といったところに注目してみると良いのではないでしょうか。

前回、前々回の記事でお示ししたように、子どもにとっては「遊びこそが学び」です。大人が読ませたいものを無理に暗唱させて、考えさせる前に思想を植え付けることが論外なのはもちろんのこと、跳び箱や、漢字練習や、計算に時間を取られて、子ども同士の関わりあいの中で遊ぶ時間がなくなってしまっては、本末転倒です。子どもが楽しく、熱中できる遊びを取り入れている園を探してみてください。

ジャーナリストとして「保育」の問題について長らく取材・執筆し、現在は保育学の研究者でもある猪熊さんと、弁護士・社会福祉士である寺町東子さんとは、2001年以来ずっと保育事故を無くすための活動を続けてきた。現在では二人ともが保育士資格も取得し、「一般社団法人子ども安全計画研究所代表」を設立して、子どもにとってより良い保育のあり方を園や保護者と共に考える活動を続けている。5月に共著として出版した『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』(内外出版社)には、約20年間保育に関わってきた経験を元に、幼稚園・保育園の選び方から、園とのつきあい方まで、子どもが入園する前に知っておきたい「乳幼児について本当に必要なこと」について書かれている。