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地方からショッピングモールが消えた後、それでも残るものは何か

起きてしまったことは変えられなくても

2012年のデビュー以来、「東京じゃない場所に住む、普通の女性たち」のリアルを描いてきた作家・山内マリコ。最新刊『選んだ孤独はよい孤独』は、主人公を男性たちに切り替え、この社会の息苦しさと希望を巧みに切り取る短編集だ。

デビュー作『ここは退屈迎えに来て』の映画版公開も10月に控える中、山内氏とライター・編集者の速水健朗氏が対談。後編は、山内作品の最重要モチーフであり、近年しばしば話題にもなっている「東京と地方」について語る。

(撮影:丸山剛史)

 

「どこにでもある地方都市」の未来

速水:ところで、山内さんが地方や郊外を継続的にテーマに据えるようになった理由というか、根本的な動機はどのへんにあるんですか?

山内:2007年に賞をいただいた頃は、とにかく女の子同士の友情を書きたいってだけでした。男同士の友情に比べて、女性の友情が低く見られていることを是正したい一心で。まあ、自分の話ですよね。あくまでその背景として、東京ではない、自分にとってリアルな街というものがありました。

でもその街をどう描くかが難しくて。東京じゃない場所というと、里山的なのどかな田舎をイメージされてしまう。地域を特定すると、土着的な文学になってしまう。そのどちらでもないプラスチックな風景が自分にはリアルなんだけど、それをうまく言語化できないまま時間が過ぎちゃって。

そのころに読んだ、速水さんの『ケータイ小説的。』に「ケータイ小説には地名が出てこない」という指摘があって、「これだ!」と思いました。これでいいんだ、と。

それで、デビュー作の『ここは退屈迎えに来て』では、地名や方言を一切出さずに、「どこかはわからないけど、どこにでもある地方都市」の物語として描いたんです。街の描写だけすれば、全国の同じような文化圏にいる人が、自分の話として読めるので。以来ずっとこのスタイルです。地名と方言は出さない。

速水:じゃあ、「地方のロードサイドを端的に描写している」としてよく引用されるあのくだりは、単行本になる前は存在しなかった?

山内:なかったですね。単行本の1話目に収録されてる話ですが、書いたのはいちばん最後でした。ギリギリひねり出せたという感じで。

〈取材を終えた車は夕方のバイパスを走る。大河のようにどこまでもつづく幹線道路。行列をなした車は時折りブレーキランプを一斉に赤く光らせ、道の両サイドにはライトアップされたチェーン店の、巨大看板が延々と連なる。ブックオフ、ハードオフ、モードオフ、TSUTAYAとワンセットになった書店、東京靴流通センター、洋服の青山、紳士服はるやま、ユニクロ、しまむら、西松屋、スタジオアリス、ゲオ、ダイソー、ニトリ、コメリ、コジマ、ココス、ガスト、ビッグボーイ、ドン・キホーテ、マクドナルド、スターバックス、マックスバリュ、パチンコ屋、スーパー銭湯、アピタ、そしてイオンモール。

こういう景色を“ファスト風土”と呼ぶのだと、須賀さんが教えてくれた〉(「私たちがすごかった栄光の話」『ここは退屈迎えに来て』2012年所収)

速水:僕が『ケータイ小説的。』を書いた頃って、「郊外論」も「ケータイ小説論」もブームだったんですよね。どちらもネガティブな捉え方がされていた。「ファスト風土」って三浦展さんが作った言葉も、まさにネガティブなものとして郊外を表した言葉だったし、ケータイ小説も、なんでこんなレベルが低い小説が売れてるんだ、って。

僕はその両方をテーマにして『ケータイ小説的。』を書いたんですけど、両者をネガティブじゃない視点で書いてみた。

山内:そこがいいんですよね。

速水:ちなみにケータイ小説が流行したのは、2000年代半ばですけど、作品の中で実際に舞台になっている時代って、そこから5年くらいは前なんです。結構ずれがあります。

さっきの山内さんの小説の引用箇所のようなファミレス、レンタルビデオ、大型量販店が増えて、日本中の光景を同じようなものにしていった時代が1980〜1990年代。現在あるような規模の大型モールのラッシュは、2000年前後。

僕は『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』っていう本も書きました。そっちはショッピングモールの歴史の話なんですけど、郊外で生まれたショッピングモールの建築様式が、その後の世界で都心の都市計画の基本スタイルになったという話です。社会学者たちのショッピングモール論が20年古いなって、少しバカにしながら書いた本です。

でも実際に、いまは都心回帰の時代で、最近はロードサイドから量販店やファミレス、TSUTAYAなんかもどんどん撤退していく。もうすでに郊外のロードサイドには、かつてのショッピングモールのキラキラ感は維持できない未来が見え隠れしている。

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