北方領土問題も関係なし…日本の対露ビジネス、こんなに拡大していた

まだまだ可能性はある
河東 哲夫 プロフィール

今ある問題

最後に、今ある問題のいくつかに触れておこう。

まず1つに、日ロ双方の互いに対する無知がある。日本人は自分のことを今でも相変わらず経済大国で、技術先進国だと思い込んでいて、上から目線でロシア市場を過小評価、ロシアのリスクを過大評価する。

他方、ロシア人、特に昔を知らない青年達に取って見れば日本はもう世界で見えなくなっている国で、ここで何を作っているか知らないし関心もない。

筆者はロシアのビジネス・スクールで10年近く講義したが、学生にビジネス・プランを作らせてみると、消費財は中国から、生産財はドイツから輸入して何かをする、というプランを作ってくる。

日本でLEDとか、工作機械を作っているとは知らないし、メールで(英語で)引き合いを出しても日本の企業からは何の反応もないので、どうしても中国、韓国、ドイツの企業が相手になる。中国の企業は、引き合いを出すと即日、英語で返事をしてきて、明日にでもモスクワに説明に行く用意があると言ってくるのだそうだ。

もう1つ、現下の最大の問題はやはり、米国の対ロ制裁が緩和される気配がないことだ。このために、日本の銀行もロシア関係案件への融資に後ろ向きになってしまう。

前述のとおり、米国の対ロ制裁に抵触する分野、あるいは制裁対象の企業(日本の対ロ制裁はゆるい)に融資したりすると、米当局に取り締まられ、罰金を食らったり米国内のビジネスを制限されたりしかねないからである。これのせいかどうかはわからないが、2014年以降、日本の対ロ輸出、直接投資とも、ほぼ半減している

なお最近、サハリンでの石油開発案件につき、ロスネフチが日本の企業に損害補償を求めている件が報道されているが、これはロスネフチとエクソンの間の話し合いがこじれているあおりを受けたもので、日本企業を狙い撃ちしたものではない。

2006年にもガスプロムがサハリンの別の案件について日本の企業の持ち分を強引に減らしてきたが、これはロシアの大混乱時代に結んだシェル等西側企業との「不平等契約」を是正するのが趣旨で、日本の企業は持ち株を譲渡したのに対して正当な支払いを受けたようだ。

こういう時、当事者は沈黙を守りがちなので、新聞の見出しだけ見ていると判断を誤ることになる。

 

ロシア・ビジネス再開への準備

問題にばかりこだわっていては、前に進めない。制裁が緩和された時にはジャンプ・スタートできるよう、案件、それも大きなものを仕込んでおこう。それに、緩和される前にも進められるものはある。何が可能か?

まずロシアの人的リソースを活用することが可能だ。特にコンピューターのソフト開発では、ロシア人は大きく貢献してくれるだろう。

日本ではこの手のロシア人が既に何人も働いている。AIの共同開発も可能だ。ロシア人は、アメリカ人と同様、枠にとらわれない奇想天外なアイデアを出すので、AI開発に向いている。

次に、日本の新しい技術をロシアで使うことを考える。例えばセルロース・ナノファイバーという素材が今注目されている。鋼鉄よりも強く、はるかに軽い。これをロシア極東、シベリアの木材で作るのだ。

さらに、日ロ間では原子力平和利用について協力協定が結ばれている(2009年署名)ことに着目するべきだ。

プルトニウムを処理すること、使用済み原子力燃料の廃棄で協力すること、あるいは今や世界一の原発プラント輸出国となったロシアのロスアトムと協力することができるだろう。

ロシアはウランの輸出、再処理を込みにして原発プラントを輸出できるので、日本企業より競争力を持っている。

奇想天外ではあるが、ロシアの兵器を輸入することも十分可能なのだ。ASEAN諸国も、インドも、ロシアの戦闘機や防空ミサイルを輸入している。

米国も、アフガニスタンの高地で使えるロシアのヘリコプターを購入したことがあるし、軍用にではないが今でもロシアのロケット・エンジンを輸入している。

米国とすり合わせた上で、日本もロシアの兵器を輸入してもいいではないか。