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北方領土問題も関係なし…日本の対露ビジネス、こんなに拡大していた

まだまだ可能性はある
終戦間際に北方領土がソ連軍によって占領されてから、73年目の夏を迎えている。北方領土問題は、その後延々と日ソ、日ロ関係のトゲとなり、戦争の決着となるべき平和条約も結ばれない状況が続いている。安倍首相の熱意にもかかわらず、北方領土問題は進展せず、わずかに4島周辺で、水産物養殖の共同事業を行う計画が漏れ出てくるくらい。日本とロシアの経済関係は、カニ、ウニ程度と思っている日本人も多そうだ。が、これはとんでもない錯覚。実は旧ソ連時代から、大型の投資、共同事業が目白押し。日本国内の北方領土騒ぎの影に隠れて見えない、隣の大国ロシアとのビジネスの可能性を長く旧ソ連ロシア担当の外交官を勤めた筆者が見直してみる。

 9月11~13日、「日本の隣にあるヨーロッパ」ウラジオストックでは毎年恒例の東方経済フォーラムが開かれる。安倍総理がプーチン大統領と会うために、また日本企業の社長連を何人も引き連れて乗り込むに違いない。

ビジネスが進めば、北方領土問題を話し合っていく上で、ロシア国内の雰囲気が良くなるので、いいことだ。

しかし同行する(させられる)社長、幹部の頭は大混乱しているに違いない。

ロシアのことは知らない上に、2010年頃には「中国の次の投資先」ということで猫も杓子もロシアへの投資ブーム、それが2014年のクリミア併合で暗転したと思ったら、今度はトランプ・プーチン首脳会談でまた風向きが変わって来た様子、とは言え、トランプは米国内で「ロシア・コネクション」を疑われているようだし、日本政府も北方領土問題がうまくいかなかったらロシア・ビジネスに水をかけてくるのではないか等々、頭の中でぐるぐる回り、ロシア案件の決済が上がってきても、何をどう考えていいかわからない。

ロシア案件の決済が上がってきても、「リスク」の一字が目の前にちらついてハンコを押せない。

このような状況を打破できるかどうかわからないが、ここでロシア・ビジネスについていくつか、基本的な判断材料を並べておこう。リスクとチャンス――ロシアとは大きなプロジェクトが可能なのだ――をきちんと仕分けて考えることができるように。

 

ロシアとのビジネスは大きく考える

まず一つ。それは、ロシアとのビジネスは十分可能だ、そしてロシアとのビジネスでは目標を大きく据えようということ。

ロシアにはかなりの購買力がある。年によって随分変動するが、石油、天然ガス、兵器、原発建設エンジニアリング等々を輸出して、この3年で毎年平均約3700億ドル分の外貨を稼いでいる国なのだ。

そして耐久消費財の多くを輸入するので(全輸入額はこの3年で年平均約2300億ドル)、日本企業も主として海外の工場から電気製品や自動車などを大量に輸出している。

そしてロシアは、日本のエネルギー資源供給では大手だ。ロシア産原油の輸入は2016年、日本の需要の10%弱をまかなっていたし(その後中国向けが増え、日本の需要の5%程度に急減)、天然ガス、石炭(原料炭が多い)では今でも日本の需要の10%程度を供給している。

ロシア人は口を開くと、「日本は直接投資をしてくれない。北方領土問題があるからだろう」と言うが、それは事実に反する。

日本の企業はロシア人からの引き合いを断る時、「それはもうからないから」とか「貴方が信用できないので」とは言えないので、北方領土問題を口実にしがちなのだが、それを真に受けたのだろう。

実際には、日本タバコはサンクト・ペテルブルク近郊に大工場を持ち、ロシア随一の煙草メーカーとなっている。

これは日本タバコが1999年、米国のレイノルズ社の海外事業を買収した際にくっついてきたものだが、同じくサンクト・ペテルブルク近郊にはトヨタが2007年自前で建設した自動車工場がある。これは日本政府がトヨタに呼びかけて決断してもらったもので、案の定、これが呼び水となってその後の対ロシア直接投資ブームが巻き起こった。

ソ連時代からこの国の市場に食い込んでいたコマツは、2008年にはヤロスラヴリに工場を建設している。因みにロシアはドイツと並んでユーラシア西方部随一の乗用車市場なので、今では日本の自動車メーカーの多くが工場を持っている。

欧米諸国がロシアのエネルギー部門に投資を集中している――利益率が高い――のに対して、日本はロシアが真に必要としている製造業の分野に投資の多くを向けている。ロシアに、「日本は直接投資を十分してくれない」と言われる理由はない。製造業だけではない。ユニクロ(製造業でもあるが)はモスクワなどに大型店舗を何件も展開している。そこではロシアの青年達がソ連時代とは様変わり、売り場をいつもてきぱきと歩き回っては顧客に「何か御用は?」と聞いてくる。