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AIは医師国家試験を突破できるか~医学部受験の専門家が考察

すでに大学生レベルというけれど

東大合格は一旦断念されたが

2011年、国立情報学研究所の新井紀子教授が主導した「ロボットは東大に入れるか」というユニークなプロジェクトがスタートした。新井教授はベストセラー『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者であり、数理論理学の研究者だ。

2016年度までに大学入試センター試験で高得点を取り、2021年度に東大入試を突破することを目標に、産官学連携でAI(人工知能)の開発が進められたのである。

ロボットといっても、ヒト型のロボットが受験会場で問題を解くわけではなく、入試問題を解くために特化されたAI「東ロボ」くんが主人公である。

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東ロボくんには、AI研究で先端のビッグデータによる統計的手法が用いられ、莫大な知識がインプットされた。例えば英語は500億語もの単語が読み込まされた。そして、世界トップの囲碁棋士を立て続けに破った囲碁AIのAlphaGoで絶大な効果を上げた「深層学習=ディープラーニング」が、成果を上げることが期待された。

 

東ロボくんの模試の成績は年々、伸び続け、最終的に、東ロボくんは2016年6月の進研模試「総合学力マーク模試」で、5教科8科目の偏差値は、57.8に達した。

特に高得点だったのは数学と世界史で、特に富士通研究所と名古屋大学が担当した「数IA」で偏差値64(前年46.9)、「数IIB」で65.8(同51.9)、日本ユニシスが担当した「世界史B」で偏差値66.5(同56.1)をマークした。

偏差値57.8は私立大学の441大学1055学部、国公立大学の33大学39学部で合格可能性80%以上に相当するものだ。東ロボくんの成果は、MARCHレベル(都内有名大学=明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)で、合格判定80%(合格確実)のところまで来た。

しかし2016年11月、国立情報学研究所はプロジェクトの終了を発表した。MARCHレベルは合格できても、東大レベルにははるかに及ばず、成績は伸び悩み、人工知能の限界が来たという。

このまま続けても東大合格レベルに達する見込みがないということで、新井教授らは断念したのである。ここまできたらあと少し、に思えるものだが、世界の先端のAIであっても、東大生の頭脳には近づけない差があったのだ。

新井教授は約5年間に及ぶ東ロボくんの研究を通し、AIが人間の知能を越すとする「シンギュラリティ(技術的特異点)はこない」と結論づけた。数十年の間で急激に発達した最新テクノロジーの勢いを持ってしても、AIの学習能力には限界があり、人工知能が人間の進化を越える日は来ないというのだ。

AIは医学部に入れるか

さて、AIは、東大は無理でも、医学部には合格できるだろうか。医学部受験を長年指導してきた私なりに、勝手に憶測してみたい。

医学部は、近年、人気沸騰で偏差値が高止まりし、一番合格しやすい私立大学でも、早稲田大、慶應大等の理系学部並みの難関となっている。東ロボくんの成果は、MARCHで、合格判定80%(合格確実)であった。それ以上の難関である医学部に合格できる見込みはあるか?

著者の見解では、AIは戦略的に挑戦すれば、医学部にも合格できる。というのも、医学部の入学試験の科目は、数学+理科2科目+英語の計4科目が中心で、AIの得意な問題類型に当たる可能性が高い科目で構成されているからである。

仮に、理科の選択科目を、化学と生物にした場合を想定してみる。化学も生物も、知識主導で解ける問題)で構成されることが多いため、センター試験「世界史B」で偏差値66.5を達成した東ロボくんなら、きっと高得点を取ることができるだろう。

また、数学については、心配はいらない。AIの数学得点力は、先に説明したとおりである。とくに、短時間での計算処理を中心とする問題類型が多い医学部の試験においては、十分な合格力があるといえるだろう。

一方で、AIは「読解」が苦手と言われる。AIは、文章の意味を理解することができないためだ。

しかし、不得意のはずの英語でも、語彙などの知識主導の問題類型の出題が多い大学を選べば、高得点が望める。読解問題で多少失点しても、数学、理科の得点率と合わせて、合格水準に達するとこも可能だと思われる。受験は総合得点での勝負だからである。