下川 僕、ここで初めて告白するかもしれない。実は、プーケット島へ行ったことないんですよね。
室橋 別にいいと思いますけど(笑)。でもプーケット、ご家族とかで行かれると、いいところですよ。
下川 そうらしいですね。
室橋 僕もちょっと馬鹿にしていたんですよ。あんなリゾート地なんてなんなの? とか思っていたんですけど、行ったら行ったで楽しいんですよね。毎年、ビーチでも取材しているんですけれど、おじさん一人でもけっこう楽しめるところです。
僕の知り合いのシニアには、タイの少数民族をずっと撮り歩いている方がいます。引退してからカメラを勉強して、それからタイの少数民族にハマって、プロのカメラマンの資格を取っている。また、一生懸命ブログを書いている方なんかもいる。60過ぎてから、カメラとか、ブログをやりたいとか、何か一つを取っかかりにして、完全にずっぽりはまり込んでいる人は多いです。情熱ってすごいですよ。
下川 そうですね。何かにすごく深く入り込んで、雑談になるとそればっかりの人っている。そういう人と会うと、ちょっと避けますね(笑)。もし、シニアの人がこれから『おとなの青春旅行』を参考に旅するなら、一人で旅したほうがいいと思うんだけど、一人で旅する人は、自分はこういうところを回っているとか、祭りを撮っているとか、どうしても発信したいですよね。
そういう人たちですごく損してると思うのが、ブログが下手なところ。多量の知識があるのに、おもしろくない。
そこでね、僕は原稿がうまくなるコツっていうのは二点しかないと思う。皆さん、これはメモしたほうがいいかもしれないけど、とにかく文章を短くする。40字以内。それから接続詞を使わない。「また」とか「ちなみに」とか。
これがなぜ重要かというと、シニアの原稿って余分なことが多すぎるんです。知識があるから書きたくて書きたくてしょうがない、という思いがある。読まされてるほうはたまんないですね。それを防ぐには文章を短くするしかないんです。
文章を短くすると自分がいかにくどくて、同じことを書いてきたかに改めて気づく。主語が全部自分だったりとか、いろいろなことに気づいてくるんですね。文章ってすごく難しいもので、奥深いものがいっぱいあるけれども、まず短くして、接続詞を使わないで、内容でつなぐ、ということが基本です。
もう一点敢えて言えば、自分の旅を得意になって書いている人は読んでもらえないです。自分の欠点が書ける人は読んでもらえます。この差は大きいです。この差で僕は生きているような感じがしますね(笑)。自分が失敗したことを平気で書けるようになるかっていうことが、僕は一つのボーダーだと思います。
旅は、どんなに偉い人も、どんなに貧しい人も、相手は平等に扱ってくれるものです。この人が偉いかどうかとか、お金持ちかどうかとか、外国人にはわからないですからね。どこ行っても同じように扱われるわけだから、自分はこんなにすごい人間だと言ったところで通じません。旅のおもしろさも、そこからスタートする。本当に一人になるんです、そこで。これが旅の本質だと思います。
こんなことを踏まえていれば、もっとあなたの旅ブログのアクセス数は増えると思います。自分の旅をすごく声高に、「なあ、すごいことをやってるだろう?」みたいなにおいがしてくると、みんな引きますよね。これって自分が逆な立場だったらそうなのに、ついやってしまうシニアの愚かさだと思います。
室橋 接続詞を多用してしまうライターとしての私の愚かしさを反省しています……。ありがたいお言葉をいただきました。下川さん、もし、このお仕事に就いていなかったから、旅のことを発信していきたいと思っていましたか?
下川 初めて旅について書いたのは35歳くらいのことで、海外旅のことを書いて誰かが読んでくれるとはまったく思っていなかった。これは自分の趣味というか、遊びのような世界だなと思っていました。
そもそも旅をしたら、書きたくないですよね。旅をしたいわけであって、そこから先というのは商売、自分の生活のために旅を売っているわけです。旅を売った人間だから大きいことは言えないんですけど、旅は非常に内面の世界だと思いますね。
突き詰めていけば、けっこう孤独な世界だと思います。でも、そう考えるとどんどん、どんどん暗い旅人になっていくので、適当に止めたほうがいいと僕は思います(笑)。