リタイアしたら、『地球の歩き方』にも載っていない町に行ってみよう

世界遺産を見なくてもいいじゃないか
下川 裕治, 室橋 裕和 プロフィール

バックパッカーこそシニア向き

室橋 『おとなの青春旅行』では15ルートの紹介に加えて、旅のノウハウ、マニュアル的な部分にもかなりページを割いております。それは若い世代向けというよりは、大人、シニア向けのノウハウを紹介していて、それを旅の裏技100本として紹介しています。

その中で、たとえば、ちょっと大げさな話なんですけど、高血圧の人向けの旅行術だとか、糖尿病の人は何をどう用意していったらいいのかとか、そういうことを書いていますけれど。下川さん、若い頃に比べて、旅のスタイルって何か変化ありますか?

下川 長い距離を歩けなくなってきたというのが一番大きい。最近、40代のカメラマンと一緒に歩いていると、10分で5mぐらい差がつきます。やっぱり人間って、歩くのが遅くなるんだろうな。

それと体力はきっとあるんだろうなと自分では思っているんだけれども、なんとなく先々の不安みたいなものが出てきて、行く前にちゃんと休んでおこうとか考えてしまいます。

この前、パキスタンやインドへ行ったとき、暑かったんですよ。最高気温が44度で、最低が38度ぐらいだったんですね。やっぱり40度を超えると、かけているメガネの金属部分が熱くて持てなくなりますよね。そのぐらい暑いんだけど、まあ、なんとかいけるなというようなところもある。シニアって体力はまだまだあると思っています。

そういう面では、僕は旅のスタイルとして、実はバックパッカーはシニアにふさわしいと思います。無理しないで旅ができるという意味では、ガツガツと旅をしないスタイルができあがっていけば、シニア向けの旅行スタイルになります。

バックパッカーってすごくハードな旅をしているようにみんなに言いますが、相当休んでいますよ、彼らは。激しいところだけ強調してみんなの前でしゃべっているだけで、その10倍ぐらいダラーッとしているのがバックパッカーというものです。

バックパッカーって、真面目な人はできないと思います。もっと怠惰な人間じゃないとできない。無駄な時間を使うことに対して後ろめたさを感じない人々という感じがしますね。そういう面では、シニアの人というのは自由な時間が出てくるからいいんじゃないかな。体力面で、だんだん不安が強くなってくることは事実ですから。

室橋 歩くのがきつくなってきたって、膝ですか。

下川 いや、膝なんだろうか……全体的な体力だと思うんですね。

室橋 下川さん、以前、坂道が辛いとか言っていたような気がする。

下川 そうそう、山登りがね。香港島の山を登ったときつくづく思いました。ああ、ダメになってきたなと。

メコンの夕陽に涙する(写真:室橋裕和)

室橋 いま下川さん、バックパッカーはシニア向けの旅行スタイルとおっしゃっていましたけれども、最近の若い人って、あんまり極端に安いホテルには泊まらないですよね。ちょっといいデザイン系のゲストハウスがアジア各地に増えていまして、ややおしゃれだったり、1階にロビーがあって、各国の旅行者が集まるような場所になっている。

昔みたいに安かろう悪かろうのボロボロの安宿って、どこへ行っても減っていると思うんですけど、そういうところをのぞいてみると、日本人のおじさんが普通にいたりするんですよね。むしろ若者よりもガッツリ、バックパッカー的なことをやっている人もいる。

あるいは、最近はどこも快適な交通機関が増えてきて、快適に移動できるんですけれど。それでも相変わらずローカルのバスで目指しているのはおじさんだったりするというのが、けっこう見ません?

下川 うん、多いですよ。昔、バックパッカーを経験したような人たちは、乗り物、バスはこういうもんだとか、宿はこういうもんだというのがかなり植えつけられている。実は僕はその一人なんだけど。

この前もインドネシアへ行っていて、翌朝4時発くらいの列車で移動する予定だったので、なるべく駅の近くに泊まりたかったのね。で、駅員に近くのホテルを訊ねて行ったら、言葉の通じないおじいちゃんが一人いて、泊まったのがロスメンと呼ばれる、インドネシアの昔の安宿です。そこは、すごいホッとするのね。心の中で、活き活きしてくる自分を感じてしまった。

そういうようなところにセッティングされてしまった人間の不幸を僕はすごく感じています。安いことがいいことじゃなくて、何か自分の中で落ち着くみたいなところがある。年を重ねてくると頑固になるというのもあるのかもしれないけど、やっぱり貧しい時代を知っているということじゃないかなと思います。