リタイアしたら、『地球の歩き方』にも載っていない町に行ってみよう

世界遺産を見なくてもいいじゃないか
下川 裕治, 室橋 裕和 プロフィール

下川 うん、タイへ行ってちょっと冒険をしました。「ちょっと冒険」って、シニアの人のすごいキーワードだと思うんです。ちょっと矛盾する言葉だけど、「安全な冒険」をしたい人は、短い日数だったら、スパンブリーがいいのではないかと思う。

そこまで敢えて列車で行く。6時間ぐらいかかります。そこからバスで帰ってくると1時間半でバンコクへ戻れるので、列車はふつう誰も乗らないですね。ガラガラなので、タイの国鉄もなんで走らせているか、よくわかっていないと思うんですけど。

スパンブリー行きの列車は1日1便しかないです。ほとんど客がいないので、すぐ行って、すぐ乗れます。乗る人も降りる人もいないので、車掌もドアも開けないですね。その終点がスパンブリーなんですけど、スパンブリー駅に着いても、スパンブリーの街なかまで5㎞ぐらいあるんですよ(笑)。

運転手がちょっとだけ気を利かしてくれて、なぜか、終着駅のホームから800mぐらい先に列車を進めてくれるんです。駅舎から線路が少し延びていて、ちょっと大通りに近づくのね。そこで下ろしてくれてまた駅舎へ帰って行っちゃうんだけど。

実はここからが「ちょっと冒険」っぽいんだけど、どうやってスパンブリーの町まで行くか? バスが出ているぞとか、運転手さんとかが言っていたんだけど、来やしないですね。そこからどうやって町まで行くか。皆さん頑張りましょうということです(笑)。

僕の場合は、降りた所の近くに1軒だけ、鶏肉を焼いている店があって、そこのおばちゃんに話したら、「ああ、行くよ、行くよ」って、後ろから息子が出てきて、バイクを出してくれました。だいたい30バーツで行くような距離だと思うんですけど、しっかり100バーツ取られました。

路上に立って頑張れば、いつの日か何か来ると思います。タイは安全な冒険ができる国ですから、そこはドンと構えていていい。遅くなってもスパンブリーには着きますから。スパンブリーというのは、ガイドブックに出ているのかな?

室橋 たぶん出ていない。何もない所ですから。

下川 でも行ってみると意外と大きい町で、ホテルも10軒以上あります。名所は「百年市場」。

室橋 「タラートロイピー」というところですね。

下川 そうそう。そういうのが残っているような町ですので、意外とひっそりした旅の穴場になっていくんじゃないかなと思います。帰りはバスターミナルへ行けば、バスが30分おきに出ていますので、1時間半でバンコクへ帰れます。行くときは何をしていたんだろうな、という旅になるわけです(笑)。

カンボジアの旅もかなり安全になった(写真:室橋裕和)

来ない乗り物をどれくらい待てるか

室橋 なんとかなる感というのが、いまタイのみならず、経済発展に伴って少しずつジワリジワリと周りの国にも波及していっているような気がしていて、ラオス、カンボジアあたりも、まあ、どうにかなるだろう感が出てきたような感じはあります。

たとえば、この前メコン川の畔、ラオスのパクベンというところで延々とスピードボートを待っていたんですけれど、来る、来ると言われても、2時間待っても、3時間待っても来ないんですよ。

ここのパクベンからフエサイまで行って国境を渡って、タイのチェンライまで行きたかったので、いま来てくれなきゃ間に合わないというイライラ感があるんですけれど。それでもいつかボートはちゃんとやって来るし、どうにか移動はできる。メコン川を遡ってボートがブイーンと行くんですけれど、そのちょっとした冒険感みたいなのはラオスでも感じられます。

下川 そうですね。30~40代の方とシニアの方の違いに触れると、シニアの人は日本が立派な国だと思っている。経済力のある時代に仕事をやってきたという自負を、ゼロにする必要は全然ないと思いますけど、そういうのを背負っているのは一生抜けないですから。これは不運です。

シニアの人は、バスが来ない、ボートがなかなか来ないから、アジアはダメだからなぁみたいに思っちゃう。そこでどのぐらい待てるかという問題なんですね。シニアの人ほど待てる時間が短いと僕は思う。

その背後には、この国の人たちはちゃんとしていないという思いがあるんですよ。自分たちの国はちゃんとしていると。でも若い人たちになると、タイなんかへ行って違和感がないので、「きっと来る」と彼らが言っているんだから、来るだろうと気持ちがある。

そういう意味から言うと、なんとかなるというふうに、シニアの人は絶対に思ったほうがいいです。そこらのところを頭を切り替えていかなきゃいけないというのが、シニアの課題ですね。